第3日目 バス移動

3日目の朝がやってきたというのに今回の旅の全体的な計画が定まらない。ホーチミンから離れて、メコンデルタを周遊したい希望はあるのだが、具体的にどの街に行くのかが決まらないのだ。

昨日の夜にガイドブックとにらめっこして決めた予定はバスに乗ってホーチミンからメコンデルタを上流に向けて進み、ロンスエンに行ってみることだった。ロンスエンから先の事はロンスエンに着いてから決める事にする。

ロンスエン行きのバスが出ているバスターミナルはホーチミンの街の郊外にあるらしいので、とりあえずはバスターミナルに行ってみる。宿をチェックアウトして市内バスを乗り継いでロンスエン行きのバスターミナルに到着したのは10時前だ。ロンスエンに行きたい事を係員に伝えると、すぐさまチケットを買わされてロンスエン行きのバスまで案内された。バスは10時に出発すると言われたが、10時になっても乗客はほとんどいないし、運転手もいないし、出発する気配も無い。

本当に出発するのかと心配になってきたが、5分もしないうちに運転手がおもむろに乗り込んでバスのエンジンをかけたと思うと出発した。

30分ぐらいは出発が遅れるのは当然だと思っていたが、ベトナムのバス会社は予想以上に優秀だ。時間の正確さに驚いてしまった。乗客が少ないまま、バスターミナルを出発したので少しゆったりとバス旅を楽しめると思ったが甘かった。バスはターミナルを出てからホーチミン市内をグルグルと走り回ってお客さんを捕まえる。いつの間にか乗客が増えてきた。満席になるまで際限なく市内を走り周ると思ったが、30分ぐらい市内を走り回った後にロンスエンに向って走り始めた。

ホーチミンの市街を抜けるといつの間にか高速道路になっていた。バスは高速道路をひたすら走る。綺麗に舗装されているので乗り心地も良く、ストレスは少ない。昼が近づいてくると途中のドライブインらしいところで昼飯休憩を取った。俺も空腹だったので、ちょうど良かった。ドライブインのレストランで昼飯を食べてバスに戻ると俺が最後の乗客だった。みんな、俺が食事を食べ終わるのを待っていてくれたみたいだ。ありがたい。バスは俺が乗り込むとすぐに出発した。

食後もバスはひたすら走る。地図の上ではこのあたりでメコン川を渡る予定だ。遠くにつり橋が見えてきた。きっとこの巨大な橋がミートゥアン大橋で、下を流れているのがメコン川だ。

メコン川を小さな船がたくさん行き来している様子が伺える。橋を渡りだしたと思ったら、バスはあっという間に橋を渡りきってしまった。ミートゥアン大橋は巨大なつり橋なので上からメコン川流域を見渡すことが出来た。

山などの高低差の無いメコンデルタでは見晴らしの良い場所は少ない。ミートゥアン大橋の上からはダイナミックに動く雲とメコン川とどこまでも続く熱帯雨林の広がりを見る事が出来て感激だ。バスがあっという間に通り過ぎてしまうのだけがちょっと残念だ。

バスはメコン川に沿って上流に向って走っているらしいが、道路からメコン川を見るのは難しい。車窓からの景色はほとんどが熱帯雨林だ。

そのうちに川の向こうに工房のような建物が物が見え始めた。そういえばガイドブックに焼き物の工房がこの辺りにはたくさんあると書いてあったので、たぶんそれだろう。

工房で作られた焼き物はメコン川の水運でホーチミンなどの大都会に運ばれているらしい。こういうところでもバスを降りてのんびりと工房見学などをしたいと思うが、バスは俺の気持ちなど微塵も感じず、ノンストップでロンスエンを目指して走る。

軽快に走っていたバスが止まったと思ったら、船着場に到着したらしい。バスごと渡し舟に乗って対岸に移動するのだ。

渡し舟に乗れるとは思っていなかったのでちょっと嬉しい。たくさんの人や車やバイクやパスで船が満杯になったら出発の合図だ。ゆっくりと岸を離れて、渡し舟は対岸まで進んでいく。午後の日差しの中、メコンのゆったりした流れにのって渡し舟は対岸を目指しす。

対岸に到着すると、渡し舟に乗っていた人や車やバイクが先を争うように、いっせいに船から降りていった。大型バスは最後にゆっくりと出発する。渡し舟を降りて、少し進んだあたりから、どこかの街に入ったみたいだ。繁華街の様な場所でバスの乗客がたくさん降りていった。きっと、ロンスエンの街が近づいてきたのだろう。それでも、この場所がどこなのかは良く判らないので、終点のロンスエンのバスターミナルまでは乗車する。繁華街を過ぎて5分もしないうちにロンスエンのバスターミナルに到着してバスを降ろされた。どうやら、渡し舟を渡った後の繁華街が、ロンスエンの街の中心街だったようだ。

ロンスエンのバスターミナルに到着したのは3時頃だ。日没まではまだ時間があるので、とりあえずは町の中心部までのんびりと歩いて移動する事にした。

しかし、俺がいるロンスエンのバスターミナルが街のどの辺りにあるのか判らないので、街の中心がどこにあるのかも判らない。街の人に街の中心の場所を聞いてみようと話しかけたが英語が通じない。ホーチミンではほとんどの人が英語を話す事が出来たので困らなかったが、ロンスエンでは英語を話す事が出来る人を見つけるのがちょっと大変みたいだ。困った。

ホーチミンでは英語や日本語での客引きにうんざりさせられていたので、ロンスエンでも当然、英語は通じると思っていたのだが、大きな誤算だった。英語が通じなくても今日の宿を探すために、どうにかして街の中心に行かなくてはならない。ガイドブックには街の中心には大聖堂があると書いてあるので、地元の人に大聖堂の場所を尋ねて歩いていけば、街の中心部に到着する事が出来るはずだ。

言葉が通じなくても、人間はなんとなく意思疎通が出来るものだ。ガイドブックを見せながらジェスチャーを交えて道を聞きながらロンスエンの大聖堂に辿り着くことができた。ガイドブックの地図と大聖堂を照らし合わせ、自分が居る場所と地図の位置関係が判った。

大聖堂の近くにはマーケットやメコン川など、ロンスエンの見所が集まっている。今日の宿は大聖堂の近くのガイドブックに載っている宿の隣にした。

宿にチェックインして荷物を置いてから日没までは時間があったので街の観光に出かける。まずは街のシンボルの大聖堂に行く事にした。大聖堂の内部は思っていたよりも近代的な作りになっていた。巨大だったがそれほど魅力的ではなかった。大聖堂の次はのんびりと街を歩きながら市場に向った。市場は汚くて活気があって良い雰囲気だ。

ロンスエンの運河から、西の方を見ると空がとても綺麗だった。雲の隙間から太陽の光が輝いていて、運河の水面に映っている。

なんともいえない雰囲気だ。ロンスエンは英語も通じないし、のんびりしているのに市場は活気があって面白い街だ。2泊ぐらいのんびりと観光を楽しんでも良さそうだ。

しかし、ロンスエンで2泊してしまうと、その後の予定で諦めなければならない場所を更に増やさなければならない。絶対的な旅の期間が短すぎるのが問題なのだが仕方がない。面倒な事は宿に帰って考える事にして、とりあえずは夕暮れのロンスエンの街の雰囲気を楽しみたい。

英語の通じない場所での食事は実際に誰かが食べている物を注文するとハズレは少ない。食べ物の名前は良く判らないのだけれども美味しいものに出会えるのだ。

今日の夕食はここの屋台のかためんに決めた。美味しそうな香りだったし、お客も何人かいたので、なんとなく指を差しながら注文する。ボスっぽいおばちゃんが若い娘に指示を与えて野菜や麺を炒めさせている風景がほほえましい。そんな様子を見ているうちに出来上がった。こんな事でもロンスエンは良い所だと思えてしまう。そんな気持ちになる事が出来る旅は素晴らしい。

夜中のロンスエンも散策してみた。電気街というにはあまりにも規模が小さいのだが、それでもネオンが輝いていた。普通に夜に出歩いていても危険な感じはしない。

少し、小腹が空いてきたので、近くの屋台でサンドイッチのようなものを買って、夜のロンスエンを散策する。8時を過ぎると屋台や店が少なくなってきた。なんとなく街の空気が変わったような気がするので宿に戻った。どんな街でも人の居ない時間帯は危険度が増加する。

宿に戻って今後の旅の予定を計画する。本当はロンスエンに2泊したいところだが、今後の日程を考えると明日中にはロンスエンを出発した方が良さそうだ。

ちょっと、物足りないが仕方がない。明日は朝からロンスエン観光を強行して、お昼前には次の街に移動する事に決めた。シャワーを浴びて、Tシャツを洗濯して椅子に干して乾かす。そろそろ洗濯をしなければ、服がなくなってしまうのだ。ファンを付けたまま寝れば、明日の朝には乾いてくれるだろう。明日も忙しくなりそうなので早めに寝ることにした。

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