シナイ山のご来光

3月22日

朝、6時半にホテルの前で女の子と待ち合わせをする。これから2人でシナイ山に登りに行くのだ。バハレイヤオアシスで一緒だった女の子がオアシスの後にシナイ山に行くというので一緒に行くことにしたのだ。そんな訳で俺を誘ってくれた松川(仮名)さんとはバハレイヤオアシスから引き続き一緒に旅をすることになった。バハレイヤオアシスに行った時と同じバス停からダバブ行きのバスが出ている。ダハブ行きのバスは7時に出発する。今日は1日中バスの中で過ごす予定だ。一番後ろの席を2人で陣取って話をしたり眠ったりして1日過ごす。二人とも疲れきった頃にダハブのバスターミナルに到着した。すでに夕方の5時ごろだった。

ダハブのビーチに移動して宿を探す。俺はカイロの丸川(仮名)さんに教えてもらった宿を探す。この宿はダイビングショップも併設されていて、そのダイビングショップで働いている日本人のダイビングインストラクターが丸川さんの友人で、俺はそのインストラクターに荷物を届けるように丸川さんに頼まれていた。そのインストラクターに丸川さんからの荷物を渡してダイビングの話をする。俺がダハブにやってきた目的はシナイ山とダイビングなのだ。このインストラクターの名前は品川(仮名)さんで明日からの俺のダイビングをコーディネイトしてくれる事になった。

シナイ山とはモーゼが神から十戒を授かった山なので、ツアーを組んでたくさんの人が毎日登っている。ダハブの町を11時ごろに出発して2時間ぐらい車に揺られて山麓に到着し、それから登り始めて朝日を見て下山して麓にある修道院を見学して、お昼頃にダハブの町に戻ってくるのが一般的なツアーになっているようだ。早速、俺と松川さんは今夜のツアーに申し込んだ。シナイ山に登る前に、夕食を食べに行く。せっかくビーチリゾートにきているので松川さんと一緒にシーフード料理を食べる事にした。海岸線にはレストランがひしめき合っていて客引き達が道端で観光客の争奪戦を展開している。何軒かレストランを見て周り、店頭に並んでいる魚から美味しそうなものを選んで調理してもらうことにした。海岸沿いの席に案内されて魚が調理されるのを待つ。魚はとても大きくてボリュームがあって2人では食べきれないぐらいの量だ。味もそれなりに美味しい。最後にデザートまで出てきた。エジプトにしてはかなりクオリティーの高い食事をする事が出来て大満足だ。

11時に宿を出発してシナイ山に向う。シナイ山ツアーのワゴン車に15人ぐらい乗せられて出発する。車内はかなり窮屈だ。車内の半分以上が日本人でしめている。今夜は日本人率が高いらしい。その中にはカイロの宿で一緒だった人もいた。深夜2時ぐらいにシナイ山の麓に到着した。ここは標高が高いので少し肌寒い。頂上はここよりも更に寒いのだ。出来るだけ朝日が昇るギリギリの時間に山頂に到着し、寒い山頂で朝日を待つ時間を短くしたい。そんな訳で松川さんと俺は1時間ほど麓で時間を潰すことにした。その間にたくさんの大型バスがやってきて大量の観光客がバスから降りてきた。駐車場を見渡すだけで100台近くの観光バスが来ているみたいだ。どうやら恐ろしい数の観光客と一緒に登る事になるようだ。駐車場のある麓には修道院があり、シナイ山を登ってきた帰りにこの修道院を見学するのもツアーに含まれている。

3月23日

深夜2時半ごろから松川(仮名)さんと俺は登り始めた。ツアー客がたくさんいるので道に迷う心配はなさそうだ。少し登りはじめるとラクダとラクダ使いがたくさん現れた。どうやら、頂上までラクダに乗っていく事もできるようだ。ラクダ使いが「ラクダに乗らないか?」と客引きをしてくる。最初はラクダ使いに受け答えをしながら登っていたが、ラクダ使いがいる場所を通り過ぎるたびに話しかけてくる。しかも、客を待っているラクダ使いの数が多すぎるのだ。ラクダ使いに受け答えをするだけで疲れてきてしまった。途中からはラクダ使いが話しかけてくるのも無視して登ることにした。頂上までの道程は長いので出来るだけゆっくりと登っていく。後から来る人たちにどんどんと抜かされていくが、あせらないで自分のペースで登っていく。休憩を取ると余計に疲れてしまうので出来るだけ休憩をとらないでゆっくりと登り続けた。

登山道がしっかりとしているのでとても登りやすいが、たくさんの人が一緒に登っているので人の多さに参ってしまう。前後10メートル以内に人がいなくなることがないぐらい、たくさんの人が登っている。黙々と登っていると俺のすぐ後ろで大声を出す人がいる。うるさいと思い後ろを振り向くとすぐ目の前にラクダの顔があった。ビックリしてあわてて飛び退いた。客を乗せたラクダは登山客と同じ道を登ってくるのだ。後から来るラクダにも気をつけながら登らないといけないみたいだ。それからは、後ろから来るラクダにも気をつけながら登っていく。そのうちに標高が高くなってきたのか少し寒くなってきた。頂上は寒いと聞いていたので防寒対策はしっかりしている。松川さんもちょっと寒くなってきたみたいなので休憩をかねて上着をバックパックから出して着る。5分ぐらい休憩をしてからまた歩き出した。

後ろから追い抜いていくラクダに気をつけながら、自分のペースでゆっくりと登っていく。1時間以上は登り続けているので半分以上は登ってきてるはずだ。すると今度は上からラクダが下って来るようになった。頂上に客を乗せていったラクダが戻ってきているのだろう。下って来るラクダは登っていくラクダ以上に歩いて登っていく我々の邪魔になる。登っていくラクダと下っていくラクダがすれ違うところでは道の端に避けてラクダを先に通してからでないと危険を感じる。歩いて登る人間にとってラクダは非常に迷惑だ。

ようやく、頂上付近の茶屋に到着した。頂上の200メートルほど手前に茶屋がある。頂上はとても寒いので朝日が昇る時間までここで待機する。茶屋の中にはたくさんの欧米人がいて、その中に中高年の日本人ツアーの団体がまぎれていた。俺と松川さんはその中に入って朝日が昇る時間までひたすら待つ。今日の日の出の時間は5時45分。茶屋の中でしばらく待っていると外が明るくなってきた。時間を見ると5時40分だ。茶屋を出て頂上を目指す。外はとても寒い。持ってきた防寒具は全部身に付けているがそれでも寒い。空はそろそろ太陽が昇ってきてもおかしくない明るさになっている。頂上にはたくさんの人が朝日が出るのを待っている。朝日を待っている人の人数があまりにも多く思わず圧倒されてしまった。これだけたくさんの人が同じ方向を向いている姿は異様に感じる。その異様な集団に俺も混じって太陽が昇るのを待つ。1分ほどで太陽が登ってきた。近くにいる人の中で一番初めに太陽を見つけることができたのは俺だった。思わずスペイン語で「MIRA(みて)」と叫んでしまった。どうしてスペイン語だったのか?よく判らないがとにかくとっさに口から出たのがスペイン語だった。

朝日は驚くべき速さですぐに昇ってしまう。完全に太陽が昇りきってしまうと眩しすぎて太陽を見ることが出来なくなる。そうなると固唾を呑んで朝日を見て感動に浸っていた集団が徐々に動き出してくる。集団の中で太陽が昇るところを見て感激していた俺も動き出した。ここはモーゼが十戒を授かった場所だ。神聖な場所のはずであるが、キリスト教徒でもユダヤ教徒でもない俺には特に関係ない。それでも山の頂上で朝日を見れたのだから気持ちが良い。しかも、景色がとても綺麗なのだ。宗教には関係ない俺でも心が晴れ晴れとした気持ちになった。太陽が昇ったといっても頂上はまだ寒い。朝日を十分に満喫したので下山する事にした。

山頂から少し降ったところに分かれ道があった。登ってきた道とは別の階段で麓まで降る道があるのでそちらから降る事にした。階段の道はかなり急勾配になっているので、階段を踏み外さないように気をつけながら降りて行く。山頂から少し降りてくると暖かくなってきた。防寒対策をしっかりしていたので防寒用の上着を脱いでバックパックに押し込んだ。身軽になった身体で重くなったバックパックを背負って階段を降りる。階段の道はかなり急勾配で降っているのでこれを登ってくるのは相当に大変だっただろうと思う。膝が痛くならないように足に負担がかからないように降りて行く。俺のペースがゆっくり過ぎたので松川さんは先に行ってしまった。お互いに自分のペースで降りていくほうが良い。

かなり下の方に修道院が見えてきた。階段の道の方がかなり近道であるようだ。修道院まではかなりの距離があるが目標が見えているのと見えていないのでは気持ちの面でかなり違う。峰と峰の間にある修道院を眼下に見下ろすと、どこぞのゲームに出てきそうな「麓の教会」なイメージが頭に思い浮かんだ。ボスキャラの待ち受ける城の目前にある、セーブポイントと体力回復ができる「麓の教会」のイメージを勝手に作りながら階段の道を降りて行く。

そんなイメージを勝手に描きつつ、自分のペースで麓の教会(仮名)まで降りてくる事ができた。膝を悪くしてしまいそうな予感があったが、膝の具合は大丈夫なようで安心した。麓の教会の隅っこで松川さんが待っていてくれた。俺が麓の教会に到着したのは8時ごろだった。かなりゆっくりと降りてきた事になる。麓の教会の周りにはシナイ山の登山客が集まっている。9時から麓の教会の中を見せてくれるらしい。登山客はそれまで麓の教会の周辺で待機している。俺の周辺には韓国人の団体客が集まっていた。世界各国からたくさんの人が来ているようだ。

9時を過ぎた頃に麓の教会の門が開きだしたようだ。ぞろぞろと観光客が列を作って入っていく。その中にまぎれて俺と松川さんも麓の教会の中に入ることが出来た。麓の教会の中はそんなに大きくない。世界の色々な所にある教会と同じように、キリストの絵や十字架がある普通の教会のようだ。ちなみに俺が麓の教会と呼んでいるこの建物は聖カタリーナ修道院として世間一般に認知されている由緒正しい修道院だ。聖カタリーナ修道院を見学した後は来た時と同じワゴン車に詰め込まれてダハブに戻る。12時ごろにダハブに到着する。それから俺は登山モードからダイビングモードに切り替える。

午後からはダイビングインストラクターの品川(仮名)さんからリフレッシュダイビングの講習を受ける。俺が最後にダイビングをしたのは2年以上前なのでダイビングの知識をかなり忘れてしまっている可能性がある。それを思い出して安全にダイビングをするためのトレーニングがリフレッシュダイビングだ。最初は陸上で知識を思い出すためのペーパーワークをする。自分で思っている以上に記憶がよみがえってきた。ペーパーワークの次に実技のトレーニングをする。場所をビーチに移動して、最初は機材のセッティングを復習する。それから機材を身に付けて水中に場所を移して水中で簡単な技術チェックをする。マンツーマンの講習なので10分ほどでリフレッシュダイビングは終了した。残りの時間はファンダイブを楽しむ。久しぶりの海の世界は気持ちが良い。短い時間だったが、たくさんの魚を見ることが出来、水中の浮遊感を久しぶりに味わう事が出来た。

バハレイヤオアシスから一緒だった松川さんが今夜の夜行バスでカイロに戻るので見送る。彼女のおかげで今回の旅の前半はかなり充実した旅になった。

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