ペンギン満喫

2003年3月8日の朝。朝食を食べ終えてからイギリスの基地に上陸する。基地といっても、ずいぶん古い基地なので現在は博物館になっていて観測基地としては、ほとんど機能していないそうである。このイギリスの基地には2人の駐在員が生活していて、我々のように観光船が来ると博物館内を案内したり、南極土産の販売をしたり、郵便局員をしたりしている。

基地の周りにはたくさんのジェンツーペンギンが生息している。

太陽が暖かく包み込む中、我々はジェンツーペンギンと戯れている。南極に到着したばかりの頃は5メートル以上はペンギンに近づいてはいけない規則があったはずであるが、そんな規則も時と共にだんだんといい加減になってしまい、いたるところでペンギンと握手したり、数センチの距離で写真を撮ったりしている。ツアーリーダも注意していないので、許容範囲内なのであろう。

しばらくすると何人かのツアー客がゾディアックに乗って、隣の島に移動し始めた。基地のある島から100メートルぐらいの所にもう1つ島があるらしい。この島には巨大なクジラの骨が綺麗な形で残っていた。クジラの骨は他のところにも有ったが、これだけ完全な形で残っていたのは初めてである。

少し小高いところに登ると、氷河を見ることが出来た。太陽が出ていて暖かいので何となく大きな崩落がありそうである。崩落を期待しつつ、眺めの良い場所から氷河を見ることにした。氷河の手前でミキーフが停泊している。ミキーフと氷河の距離はかなりあるので危険はないと思う。氷河の前ではミキーフがおもちゃの船のように感じてしまう。それぐらい氷河の規模が大きいのだ。近くではペンギンがパタパタと歩き回っている。

ペンギンと戯れつつ、崩落を待っていると予想通りの大きな崩落を見ることが出来た。今回の崩落はゾディアックに乗りながら見た前回の崩落よりは距離が離れていたが、それでもかなりの大迫力である。崩落して1分ぐらい経った頃、1メートル位の高さの波が我々のいる島の海岸に到達した。ツアー客は波が来るのを予見して少し小高いところに非難していたがペンギン達は波に飲み込まれる直前になってあわてて逃げ惑っている。中には波に飲み込まれてしまっている可愛そうなペンギンもいたし、賢いペンギンは波を避けるために海に逃げていた。氷河の崩落は何度見ても感激である。

南極基地とペンギンとクジラの骨と氷河の崩落を堪能した我々はお昼前にイギリスの基地を出発した。南極に来た一週間前と比べて、海面に浮かんでいる氷山が増えているような気がする。我々が見ている間だけでこれだけの氷河が崩落していれば、氷山が増えているのも納得である。

我々が南極にやってきてからの一週間の間に南極は冬に近づいているのであろう。氷山の多さで、それを体感できた。午後の上陸地までのクルージング中にも沢山の氷山を見ることが出来た。

今日の午後はとうとう最後のペンギンコロニー上陸になってしまった。最後なので思う存分ペンギンと戯れることにした。しかし、島に上陸する前に素敵なハプニングに遭遇した。

ハプニングはゾディアックの近くをアザラシが泳いでいるのを発見した事から始まった。どうやらそのアザラシは狩をしているようなので追跡することになった。我々がアザラシを追跡し始めるとすぐにアザラシは狩に成功したようである。獲物をブンブンと振り回しながら、食事をはじめたようである。ゾディアックが周りを取り囲んでいてもお構いなしで獲物を食べ始めた。その獲物とは我々がこれから見に行こうとしているペンギンである。かなり貴重な場面を目撃する事が出来た。

思わぬハプニングの後、島に上陸すると沢山のペンギンがいつものように我々を迎えてくれた。今回の島には広い海岸線があり、遠くまで海岸線を歩き回るペンギンの姿を見渡すことが出来る。どうやら、この島では子供ペンギンが初めて海に入る時期を迎えているようである。子供のペンギンは海に入ろうとして波打ち際まで行くが、なかなか海に入れずに波打ち際でちょろちょろとしていた。そこで俺と船田(仮名)さんは子供のペンギンが海に入るのを後押ししてあげることにした。なかなか海に入れないで困っている子供のペンギンを2人で波打ち際に追い込んで海に入れようと考えた。

波打ち際までペンギンを追い込むと、たいていのペンギンは海に逃げていき、無事に海デビューを果たすことが出来るのだが、一匹だけとても臆病なペンギンがいた。俺と船田(仮名)さんが2人で協力してその臆病なペンギンを波打ち際に追い込んであげた。しかし、そのペンギンは絶対に海に入りたくなかったようで、我々の足元をするすると抜けて逃げていってしまった。海デビュー失敗である。

ペンギン達はこの時期、子育ての最後の時期である。成長の速い子供はもう、大人と変わらないぐらいに成長していて我々が協力しなくても海に入っている子供もいる。しかし、まだ自分でエサを取る事は出来ない様で、親からエサをもらっている。親は海でオキアミと言う小さなエビの一種を取ってきて子供に与えているようである。

親ペンギンはオキアミを取ってきても簡単には子供にオキアミを与えない。子供と追いかけっこをして、かなりの距離を走り回った後にオキアミを与えているようである。これで、子供ペンギンも走れるようになっていくのであろう。子供ペンギンも自立の時期を迎えているようである。

近くではペンギンの追いかけっこをいたるところで見ることが出来る。追いかけるペンギンも追われるペンギンも見た目は変わらないぐらいの同じペンギンなのであるが、追いかけているのは子供ペンギンで、追いかけられているのは親ペンギンのようである。

海岸を歩いていると、たまにオキアミが落ちている事がある。追いかけっこをしているペンギン達を観察していると、親は一度食べたオキアミを口から戻して、口うつしで子供に与えているようである。その、口うつしが上手に出来ずにオキアミを地面に落としてしまう子供ペンギンも見ることできた。地面に落ちているオキアミは子供ペンギンがオキアミを上手に食べれなかった残骸である。

地面に落ちているオキアミを観察してみると、半分溶かされているオキアミもあれば、まだ、かたちのはっきりしているオキアミもある。親の胃に収まっていた時間によって、オキアミの溶け具合も変わってくるのであろう。

最後にゾディアックに乗ってミキーフ号に戻る直前に、ツアー客の女の子がいきなり服を脱ぎだして水着になり、冷たい南極の海で泳ぎだした。温泉に入れなかった代わりに、彼女は南極で泳いでみたかったのであろう。みんなビックリしていたが俺もちょっと泳いでみたかった。

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