吹雪の南極

とうとう、南極観光の最終日がやってきてしまった。今夜からドレーク海峡を渡り南アメリカ大陸に戻るのだ。最後の上陸になる今日はアザラシ三昧の予定である。

今日は朝から雪がちらちらと降っていてとても寒そうな天候である。その中、我々はいつもの様にゾディアックで出撃する。鉛色の海を進んでいくせいか、今日はとても寒い。近くの岩場ではアゴヒゲペンギンがコロニーを形成しているが、上陸できるような地形ではない。スピードを落として、ゆっくりとゾディアックの上からアゴヒゲペンギンのコロニーを見学した。今日はアゴヒゲペンギンも寒そうである。

しばらく、アゴヒゲペンギンのコロニーを横目にゾディアックは航行していた。が、どうやら今回のクルーズの目的地を見失ってしまったらしい。ある入り江の奥にアザラシのコロニーがあるらしいのだが、その入り江を見失ったようである。

しばらく入り江を探し回った末に目的地に到着できた。そこは、アザラシがハーレムを作っている海岸である。40~50頭ぐらいのアザラシたちが気ままにゴロゴロと寝転がっていた。大きなオスは体長3メートルぐらいはある。我々が上陸すると、アザラシたちは我々に驚いて顔を上げたが、特に危険がないと判ると、また昼寝に戻ってしまった。アザラシとある程度の距離を保ちながら我々はハーレムの中に入っていった。

アザラシたちは最初我々に警戒心を抱いていたが、そのうちに慣れてきたようである。それと同時に我々もアザラシに慣れてきた。アザラシたちともっと親密に交流を深めたいが、ペンギンのように簡単にはいかない。何せアザラシはかなりの大きさがあるので、踏み潰されてしまうとこっちが怪我をしてしまう。みんな写真を撮るぐらいの交流にとどまっている。

それでも、なるべくアザラシ達を驚かさないように距離を縮めていく。そのうちオス同士が雄叫びを上げながら順位争いをはじめた。お互いに自分の体をできるだけ大きく見せて、相手を威嚇している。近づくと危険なのでちょっと遠くからその光景を眺めている。そのうちに体をぶつけ合い激しさを増してきた。体長の大きい方が勝ったらしく、負けた方はすごすごとその場を離れていった。

同じ海岸に数羽のペンギンがいた。ヒョコヒョコと海に向かって歩いていたが、アザラシ達に襲われるような気配はない。昨日、アザラシがペンギンを食べるところを見ていただけに、不思議に思いツアーガイドに聞いてみると、ペンギンを食べるアザラシは一部のアザラシだけで、今日のアザラシはペンギンを襲わない種類のアザラシなのだそうである。どうりで温厚そうな顔をしてるアザラシばかりが昼寝をしている。

今日はとても寒い。雪は降ってないがいつ降り出してもおかしくない天気である。アザラシのハーレムの中で過ごしているうちに手足が冷たくなってきた。かなり寒くなってきた頃、ミキーフ号に帰る時間がやってきた。帰りのゾディアックの中は非常に寒くみんな無言で震えているようであった。

ミキーフ号に戻り、昼飯まで少し時間があったのでシャワーを浴びて暖かさを取り戻した。シャワールームを出ると他の人も同じ事を考えていたようで、シャワールームは全部使用中になっていた。更にシャワーを待っている人もいた。

午後はゾウアザラシを見に行く。ゾウアザラシの島までミキーフ号は全速力で航行中である。しかし、天気はずっと曇りのままである。たまに雪が降ってきたりしていて、晴れる見込みはない。

しばらく航行していると緑色の氷山が見えてきた。普通の氷山の色は白なのだが、今、目の前にある氷山は完全に緑色の氷山である。普通の白い氷山は南極大陸の氷河が海に崩れ落ちて氷山になる。したがって、白い氷山は海水ではない普通の水からできている。しかし、この緑色の氷山は海水が凍りついてできるのである。今までに白の間に緑の線が入っている氷山なら見た事があったが完全に緑色の氷山は今回が初めてである。珍しい氷山に遭遇できた。

夕方5時を過ぎた頃、ようやくゾウアザラシの島に到着した。早速、ゾディアックに分乗し最後の上陸を開始する。雪がかなり積もっていて非常に寒い。ゾウアザラシに会うにはしばらく歩いていかないとならないらしい。雪を掻き分けて、一列になってみんなで歩いていく。少し上り坂になっていて年配の人にはかなりきつい行程である。おまけに雪もかなりの勢いで降りだしてきた。

頂上に到着すると、そこはアホウドリの巣の跡があった。数週間前まではここでヒナを育てていたのだそうである。もう、ヒナは巣立ちしてしまっていた。残念である。

目指すゾウアザラシはここから反対側の海岸にいるそうである。スキーかスノーボードで滑ると面白そうな坂を歩いて降って行く。そこでようやくゾウアザラシの姿を確認する事ができた。

坂を降りて海岸のまで行くと間近でゾウアザラシを見ることが出来た。ゾウアザラシは波打ち際で昼寝をしている。体長は5メートルぐらいはあり、かなりの大きさである。やはり、ゾウのように鼻が大きくなっている。不思議な生命体である。5メートルぐらいまでは近づくことが出来たが、それ以上近づいては威嚇されそうである。大きいゾウアザラシに威嚇されてしまってはひとたまりもないのである程度の距離を保ちながらゾウアザラシと交流を深めた。

帰りも同じ坂を登って降りなければならなかったが、雪が踏み固められていたので帰りはかなり楽に歩いていくことができたが、雪は更に強く降り始めてきた。最後の南極上陸では冬の南極の厳しさを垣間見ることが出来た。

帰りのゾディアックでは空も暗くなり始めていた。出発した時間が遅かったので、ミキーフ号に戻る時間もかなり遅くなった。ミキーフ号に帰還するとすぐに夕食の時間であった。

今夜から、ドレーク海峡の横断が始まる。また、一昼夜はベッドから起き上がれない時間が続くことになる。そこで、今回は強力な酔い止めを使わせてもらうことにした。それでもドレーク海峡はやはり揺れる。しかし、ずっと船で生活していたのと強力な酔い止めのおかげで、食事を食べるぐらいの余裕が生まれていた。それでも基本的には常にベッドの上で過ごしていた。

次の日の夕方、ホーン岬が見えてきたので気合でベッドから這い出してブリッジに行った。ブリッジから見た海はかなり激しく波打っている。それでも何とか耐えることが出来る体になっている。ホーン岬はなかなか見ることが出来る岬ではないので、しっかり目に焼き付けておくことが出来た。

ミキーフ号は朝早くにウシュアイアの港に到着した。2週間近い南極クルーズを終えてウシュアイアの港に戻ってくると、ウシュアイアの町の背後にせまる山がすっかり雪に覆われていた。2週間の間にすっかり冬が訪れていた。最後の朝食を食べ終え、ミキーフ号を下船した。今までお世話になったミキーフ号ツアースタッフに別れを告げて俺の南極クルーズが終了した。

99年にアラスカで夢見た南極に行きを実現して心地よい疲労感と満足感を持って朝のウシュアイアの町に戻ってきた。

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