ラブリー紅海

スエズ運河の次はダハブと云う町に行く。ダハブは紅海沿岸の町で有名なダイビングスポットになっているのだ。我々はここでダイビングをする予定である。リーコ(仮名)さんもダイビングライセンスを持っているので、カイロを出発する前からダハブでダイビングをするのを楽しみにしていたのだ。

ダハブに到着してすぐにホテルを探す。ホテルとダイビングショップは同じ経営者のところが多いらしいので、ホテルとダイビングショップは一緒に決めてしまう事にした。2人で相談してホテルを決めて、夕食に行く。ダハブの町はとても綺麗で、のんびりとした観光地である。観光地という事は当然カイロよりも物価が高い。すべての物が観光地価格になっているのだ。今までカイロの安い物価の中で生活していた俺にとって、ダハブの高い物価はかなり辛かった。

夕食の後、ホテルに戻ったリーコ(仮名)さんはシャワーを浴びに行った。しかし、リーコさんはとても早くシャワーから戻ってきた。しかも、殆ど濡れたまま、青ざめた顔をして戻ってきたのである。俺はリーコさんのその姿をみてビックリしてしまった。そして、何があったのかリーコさんに聞いてみた。どうやらリーコさんはシャワーを浴びている時に覗かれたらしく、慌てて戻ってきたのだそうだ。

どうやら覗きをしたのはホテルの従業員らしい。ホテルのレセプションに文句を言いに行ったが、「何かの間違いだろう」と言われてしまった。そして、その後におかしな言い訳をしてきた。我々は不安になったのでホテルを変える事にした。今後、同じような被害が出る可能性が高いし、これ以上の危害を加えられる可能性もあり不安である。

次の日、我々は新しいホテルに移ったのだが、覗き事件の真相はあやふやなままなので、今後も不安は残ってしまった。新しいホテルに移った我々はそこで改めて、のんびりと落ちつくことが出来た。

次の日、期待していたダイビングをしようと思ったのだが、リーコさんの体調があまり良くないらしい。そんな訳で今日はのんびりと静養しながら、ダイビングの情報を集めたり、ダハブの街を見て回ることにした。

俺は体力を持て余しぎみだったので、午後からシュノーケリングに出かける事にした。海岸近くを泳いできたが、海の中はとても綺麗だった。夕方、ホテルに戻った俺はリーコさんと一緒に夕食に行く。リーコさんは今日1日ゆっくりと休むことが出来たようである。彼女の体調はかなり良くなってきたらしい。海辺のレストランに行く途中で日本人の美佳(仮名)さんと真子(仮名)さんの2人組に出会った。せっかくなので一緒に夕食を食べる事にした。彼女達はベテラン・ダイバーで日本や海外の色々な海に潜っているのだそうだ。2人は昨日までダハブでダイビングを楽しんでいたそうである。海の中はとても綺麗で素晴らしかったと教えてくれた。色々な海を見てきた彼女達がこれだけ誉めるのだから、ここの海は本当に綺麗なのであろう。

彼女達はこれからカイロに行くといっていたのでサファリホテルの事やカイロのお薦めスポットを教えてあげた。そこから、話が盛りあがり、とても楽しい夕食になった。

昨日の夕方には体調が回復していたリーコ(仮名)さんであったが、今日の朝はあまり体調がすぐれないらしい。なので、今回のダイビングは諦めてゆっくりと静養するとリーコさんは言いはじめた。残念な事だが、体調が悪いのに無理をしてダイビングをする訳にはいかないだろう。

そんな訳で俺は1人でダイビングを申し込む事になった。ダイビングショップにいって受付をする。どうやら今日のお客は俺1人だけらしい。インストラクターと2人でジープに乗ってダイビングポイントにむかう。インストラクターから簡単にレクチャーを受けて、ダイビングの機材を着けて、いよいよ紅海に潜る。

海の中はとても綺麗である。小さな魚が群がっている所があり、綺麗な珊瑚がたくさんあり、海底洞窟があり、何とも素敵な海の世界である。ウミガメも見る事が出来た。もちろん野生のウミガメだ。

今日は2回ダイビングをした。1回目も2回目もとても素敵だった。さすがに紅海は世界に誇るダイビングスポットである。美佳(仮名)さんと真子(仮名)さんの言っていた意味が良く判る。この美しさを言葉にするのは難しい。

俺がダイビングをした次の日にはリーコ(仮名)さんの体調もだいぶん良くなってきたので、我々は移動することにした。リーコさんはダイビングをする事が出来なかったが、無理をして海に潜って病気になっても困るのだ。今回のダイビングを諦めたリーコさんの決断は素晴らしい決断だと思う。

我々はこれから船で紅海を横断してヨルダンの港町、アカバに向かう。ダハブの町から港までは遠いので、バスに乗って港まで行く。ヨルダンのアカバまでは、かなり大きな船で行くようである。船に乗って約4時間ぐらいでアカバに到着するのだそうだ。3時半ごろに船はダハブの港を出発した。

この船に乗っている乗客は現地人と観光客が半分ぐらいだ。どうやら、この船は地元の人の足としても使われている様である。俺とリーコさんはそれぞれ船の中を探検したり、本を読んだりして時間を過ごす。俺が船の中を探検していると1人のエジプト人の船員に声を掛けられたのだ。彼は日本人の俺に頼みたい事があるのだそうだ。

その、頼みたい事とは手紙の代筆である。彼の名前はアフメド(仮名)で、彼には日本人の彼女がいるので彼女宛ての手紙の代筆を俺に頼みたいと言ってきたのだ。アフメドとその日本人の彼女、美穂(仮名)が知り合ったのは1年ぐらい前らしい。美穂が観光でカイロに来た時にアフメドは彼女と出会ったのだそうだ。美穂は彼女の友達と2人でエジプトの観光に来たのだと言う。その時にアフメドは美穂とその友達のガイドをしてあげたのだそうだ。アフメドは美穂達がカイロにいるあいだ、ガイドとして美穂達2人と一緒に行動していたらしい。その時にアフメドと美穂は付き合い始めたのだと言う。そして、最後にアフメドとアドレス交換をして美穂達2人は日本に帰って行ったとの事である。

アフメドはその時の楽しかった思い出を忘れる事が出来ないそうである。しかし、美穂からは手紙が全然来ないので、アフメドは美穂に手紙を書くことにしたようなのだ。ところが、アフメドは日本語が解らないので美穂に手紙を書く事も出来ない。そこで、俺の登場である。アフメドに変わって俺が日本語で美穂に手紙を書いてあげることにしたのだ。

アフメド(仮名)が英語で話した事を俺が日本語にして手紙を代筆する。手紙の内容は「親愛なる美穂様へ」から始まって、イスラム風の簡単な時候の挨拶を書く。その後に「あなたが好きです」となった。更に「結婚してください」と続く。それから、「次はいつエジプトに来るのか?」や「早くエジプトに来て欲しい、そして、もし美穂が僕の事を好きならばエジプトで結婚しよう」などの文章が続く。

この手紙は愛の告白の手紙である。それよりも、結婚の申し込みの手紙と言った方が正しいのかも知れない。俺も面白くなってきたので、もっと素敵な言い回しを考えながらアフメドと一緒に日本語の手紙を制作する。最後は「あなたの事が好きです。アフメド」で手紙を締める事にした。アフメドの名前の下に代筆者の俺の名前を書こうと思ったが、結局やめた。

1時間ほどでアフメドの手紙の代筆が終わった。俺はとても面白い時間を過ごす事が出来た。アフメドは俺に感謝してくれたし、俺はアフメドのようなエジプト人男性の純粋な恋心を知ることが出来、お互いに有意義な時間を過ごす事が出来た。

俺が予想するに、美穂(仮名)がカイロに滞在してアフメドと一緒に過ごしたのは4、5日ぐらいであろう。アフメドは美穂の事を自分のガールフレンドだと言っていた。しかし、これはアフメドが一方的に話しているお話なので、実際に美穂がアフメドの事をどう思っているかは俺には全然判らない。もしかしたら、お互いに恋に落ちていたかもしれないし、美穂はアフメドの事をただの友達としか思っていないかも知れない。

俺が予想するに、美穂(仮名)にとってアフメド(仮名)は「ただの親切なエジプト人」としか思ってないだろう。楽しかったエジプトの旅が思い出になった頃に、その親切だったエジプト人から手紙が届けば美穂はとても驚くであろう。しかも、文面が日本語で書かれているのだ。それも、愛の告白の手紙である。更には「結婚してくれ」とまで書いてある手紙である。それを見た美穂にとってはすごい衝撃だろう。

しかし、俺の予想が外れていたら思いがけないアフメドからの手紙を受け取り美穂はとても喜ぶかもしれない。しかし、実際にアフメドからの手紙を受け取った美穂がどのような気持ちになるかを知ることが出来ないのは残念である。何はともあれ、俺にとっては楽しいひとときになった。

楽しいひとときを過した俺はリーコ(仮名)さんの所に戻ってきて、アフメド(仮名)と美穂(仮名)の淡い恋のお手伝いをしてきた事を話した。その話しを聞いたリーコさんはちょっと渋い顔をしてた。

綺麗な夕日が沈んで辺りが暗くなった頃、ようやく船はヨルダンのアタバに到着した。我々と同じ船に日本人の男の子2人が乗っていた。せっかくなので、彼らと一緒に1つのタクシーでホテルまで向かう事にした。ホテルの部屋に泊るよりも屋上のルーフに泊るほうが気持ちよさそうである。そんな訳で4人とも屋上のルーフに泊る事にした。屋上から見る事が出来るアタバの夜景はとても綺麗である。

今夜は4人で一緒に夕食を食べに行くことにした。男の子2人の名前はテルオ(仮名)君と菅原(仮名)さん。テルオ君と菅原さんもカイロからイスタンブールを目指して旅をしているのだそうだ。4人でいろいろと話しをして楽しい夜になった。

<<前のページ | シルクロードの旅に戻る | 次のページ>>