インカ帝国の遺産

俺は今、かつてのインカ帝国の首都クスコに来ている。森川(仮名)君達に観光ポイントを教えてもらっていたので、今日はクスコ観光をする。昔のインカ帝国の皇帝のお城は今は博物館になっている。しかし、インカ帝国がスペイン人に滅ぼされた時にお城などの建物は徹底的に破壊され、その上にスペイン風の建物が建てられている。そのスペイン風の建物を改築して博物館にしているのだ。博物館は壮大である。大きな絵画や数少ないインカ帝国時代の名残を見る事も出来た。感激である。中庭も綺麗になっている。この中庭もインカ時代からの名残らしい。

クスコには他にも博物館や教会などがたくさんあって見応えがあった。それにもまして凄いのはクスコの街並みである。石畳の道路がいたるところに延びている。建物の基礎部分にインカ時代の石が積み上げられていて、その上にスペイン風の建物が建っているのである。なんとも言えない味が出ている風景だ。

市場には洋服屋もあったので覗いてみた。クスコの洋服屋のマネキンもイキトスと同じように笑えるマネキンであった。この街のマネキンにも多いに笑わせてもらった。きっと、ペルー中のマネキンが同じタイプなのであろう。

朝早い列車に乗ってマチュピチュに向かう。たくさんの観光客を乗せて列車はクスコを出発した。しかし出発したと思ったらすぐに列車は止ってしまったのだ。何か故障でもしたのだろうか?すると、列車は引き帰しはじめたのだ。どうなっているのか判らないが、俺はこのまま列車に乗っていることしか出来ない。

しかし、列車は元の駅には戻らないでどんどん崖を登っていってる様である。列車はスイッチバックをして山を登って行くらしいのだ。列車の故障で止ったのではなかったので安心した。スイッチバックを何度か繰り返しながら列車は山を登っていく。

列車はアンデスの山々を見ながら走って行く。景色は綺麗である。何度か駅に停車しながらマチュピチュに向かうのだ。途中の駅で降りて行く観光客もいる。彼らはトレッキングで何泊もキャンプをしながらマチュピチュまで歩いて行くらしいのだ。みんな山を歩く装備をしている。そう云う旅も面白そうだ。

お昼頃にアグアスカリエンテという村に到着した。アグアスカリエンテという村がマチュピチュ観光の前線になっている村だ。この村からバスに乗って崖を登っていくと、マチュピチュに到着である。俺はバスには乗らずに崖を歩いて登っていくことにした。登山道があって、そこを歩いて登っていく。少しづつ登っていくと徐々に雄大な景色が見えてきた。感激である。約1時間ほどでマチュピチュに到着した。自分の足で登ってきたマチュピチュは格別であった。

入場券を買ってマチュピチュに入った。思っていたよりもマチュピチュは広かった。マチュピチュの遺跡にも感動したのだけれど、眼下に広がる景色もまた素晴らしい。マチュピチュの両側が切り立った崖になっていて、そこに広がる景色がとても素敵なのだ。崖下には川が流れていて村があって、その向に険しい山がそびえているのだ。圧巻の景色である。

マチュピチュの遺跡本体も素敵である。インカ帝国時代の石造りの建物や神殿があるのだ。観光客がたくさんいて、団体客もたくさんいるので団体客のガイドさんの説明を聞く。英語の説明なので半分ぐらいは解らないのであるが、説明があった方がなんとなく解る気がするのだ。もちろん日本人の観光客もたくさん来ている。マチュピチュはペルーの大切な観光資源なのだから当然だろう。

マチュピチュで綺麗な夕日を見る事が出来た。暗くならないうちにアグアスカリエンテに戻ることにする。帰りは30分ぐらいで崖を降りる事が出来た。グッバイボーイと云う子供がいて、彼と競争したのだけれど、全然ついて行くことができなかった。俺が崖を下りる間に二人ぐらいのグッバイボーイに抜かれてしまった。彼らの崖を降りる早さは鍛えぬかれたスピードである。

グッバイボーイとはマチュピチュからアグアスカリエンテに戻るバスに向かって「グッバーイ」と叫ぶ子供である。しかし、これが結構大変な仕事なのだ。グッバイボーイはマチュピチュを出発するバスに向かって「グッバーイ」と叫ぶ。バスが見えなくなると急な崖の登山道をまっすぐに降りて行くのである。バスは急な崖を真っ直ぐに降りれないのでジグザグの道を通って少しづつ崖を降りて行く。途中で何度も登山道とバスの道は交差するのであるが、グッバイボーイはその交差地点に先回りをしてバスが来るのを待つのだ。バスがやってくるとバスに向かって「グッバーイ」と叫び、すばやく崖を降りて次の交差地点に先回りしてバスを待つ。登山道とバスの道の交差地点は何度もあるので、グッバイボーイは「グッバーイ」と叫んで崖を駆け降りるのを何度も繰り返すのだ。そして最後にバスに乗り込んで観光客からチップをもらうという寸法である。当然ながら、バスの運転手の兄ちゃんはグッバイボーイのための低速度でバスを運転している。グッバイボーイもバス会社にとっては大切な働き手であり、収入も少なくはないのだろう。

アグアスカリエンテの宿に戻って、夕食を食べにいく。マチュピチュには観光客相手の高級なレストランしかなかったので、明日はお弁当を持参で行く事にした。アグアスカリエンテの村でパンとハムとマヨネーズを買ってサンドイッチをつくることにした。

2日目は早朝に起きてマチュピチュに向かう。まだ、バスも走ってない様だ。朝のマチュピチュに到着。マチュピチュは朝日を受けて綺麗である。崖下から雲が上がってきて上空に抜けて行った。まさに空中の古代都市である。まだ朝早いので観光客もそれほど多くない。素敵な雰囲気である。

朝のうちにほとんど人のいないマチュピチュの中を歩きまわった。しばらくすると観光客がたくさんやって来たのでワイナピチュに登ってみることにした。マチュピチュから1時間30分ほどで頂上まで登ることが出来た。ワイナピチュの登山道は急斜面の断崖絶壁である。ちょっと怖い場所が何ヶ所もあった。

ワイナピチュの頂上からの眺めは最高であった。マチュピチュを眼下に見下ろせるのである。素晴らしい。しばらくの間、そこから景色を眺めていた。ワイナピチュを降りるのは登るのよりも恐ろしかった。なんせ、登山道が狭いのである。無事にワイナピチュから降りてくると雨が降ってきた。マチュピチュの遺跡の中で雨宿りしながら昼飯を食べる事にした。アグアスカリエンテから持参してきたサンドイッチを食べる。雨のマチュピチュもまた素晴らしい眺めであった。

今日の帰りは気合いでグッバイボーイに付いて崖を降りていった。3回ぐらいはグッバイボーイと一緒に崖を降りて、バスに向かって「グッバーイ」と叫ぶことが出来たのである。しかし、俺はグッバイボーイに徐々に離されていった。グッバイボーイも俺のことを心配して振り向いてくれるのだが、グッバイボーイと俺の差はどんどん広がっていった。最後にはグッバイボーイの姿が見えなくなってしまった。ビーチサンダルでグッバイボーイについていこうとしたのが間違いであった。

俺は2日間のマチュピチュ観光を満喫してクスコに戻ってきた。クスコの町を歩いていると、どこかで見かけた西洋人が俺に話しかけてきた。見かけた事はあるが思い出せない。話してみると、彼はクイアバで一緒にジャングルツアーに行ったイスラエル人であった。こんな所でばったり再会である。驚いた。俺とカナ(仮名)ちゃんはイキトスで別れたことを話したりして、しばしば懐かしんだ。

早朝にクスコを出発してプーノに向かう。プーノにはチチカカ湖という有名な湖があるのでそれを見に行くのだ。クスコを朝早くに出発してプーノに向かう。クスコからプーノまではとても綺麗な景色が続いていた。アンデスの高原が続いていてヤギや羊が放牧されているのだ。その途中にはインカの遺跡が点在しているのだ。感激である。素晴らしい眺めを満喫しながらの移動になった。バスは夕方近くにプーノに到着した。

次の日、チチカカ湖に行ってみた。途中のバザールで朝食を買って食べながらバザールを見てまわった。すると、ポケットに入れておいたお金をすられた。犯人はどこかに行ってしまったようで、どうしようもない。盗まれたのは小額のお金だったのだが、俺はかなり落ち込んでしまった。しょうがないので落ち込んだままチチカカ湖に向かった。桟橋に観光ボートの客引のおじさんがいた。おじさんは俺もボートに乗るように薦めてくれた。しかし、俺のポケットにはお金が何も入ってないのだ。お金を盗まれた事を客引のおじさんに話すと、おじさんは警察を呼んできてくれた。そして、パトカーに乗せられて俺は警察署に連れていかれた。

3日間ぐらいの生活費が盗まれてしまった俺は落ち込んでいる。それに盗まれたお金は警察にいっても戻ってこないのは知っている。それでも、ショックで落ち込んでしまった気持ちはどうすることも出来ないので、言われるがままに警察で被害届を作成してもらう。俺のつたないスペイン語と警察官のつたない英語とジェスチャーで被害届が作られて行った。被害届を作っているうちに俺の気持も立ち直ってきた。

銀行でお金を引き出して、さっきの桟橋に行った。チチカカ湖の浮島に行くことにしたのだ。さっきの客引のおじさんに船に乗せてもらえる様にお願いする。俺が盗難にあってることを知っていたのでボート代は格安にしてくれた。

湖にはアシの葉で作られた浮島があるのだ。浮島もインカ時代からの伝統らしい。今もまだ浮島に住んでいる人はいるようであるが、ほとんど観光収入で暮しているみたいだ。そんな浮島の1つに我々のボートは到着した。浮島には2家族ぐらいがいて、アシの葉で作った家などを見せてくれた。浮島には展望台もあって、遠くを見渡すことができた。

次の日の朝、チリに行くためのバスを探す。チリに行くバスは夜の出発だというのだ。昼間の時間が空いてしまったので昼間のうちにチチカカ湖を見渡せる丘に登ることにした。たくさんの観光客や地元の人達もその丘に登っていた。その丘はキリスト教の聖地の1つになってるらしく、頂上にキリストの像があった。眺めは素晴らしかった。

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