ハンモック生活

ポルトベリョに到着したのは夜だったので、すぐに宿を見つけてチェックインする。実はポルトベリョからアマゾン川の中流にある大都市マナウスまで船旅をすることにしているのだ。次の日の朝に港に行って船が出発するのはいつかを聞いてみる。今日の夕方にマナウス行きの船が出発するらしいので、それに乗ってマナウスに行く事にした。

ポルトベリョからマナウスまでは船で3日かかる長旅である。今回の船旅ではハンモックが必要なので、ハンモックを買いに行く。ポルトベリョにはハンモック屋さんがたくさんあるので、色々と物色してハンモックを購入した。

早速、船に乗り込んでハンモックを吊るす。これから3日間はハンモックで寝泊りする生活になるのだ。ちょっぴりドキドキである。船の中はたくさんの人と荷物でいっぱいである。ハンモックも所狭しと吊られていて、となりのハンモックとぶつかってしまうほどだ。それでも俺には初体験のハンモック生活なので、すべてが新鮮である。

船にはコックさんが乗っていて食事は3食付いている。水も自由に飲めるようになっている。上の階にはミニバーがあって、そこでビールを買う事も出来る快適な旅である。しかし、食事内容は毎日ほとんど変わらないのだ。朝はパンとジャム、昼と夜は炒めご飯と鳥のシチュー。最終日にはさすがに飽きてくる食事メニューだった。

ポルトベリョからマナウスまではアマゾン川の支流を下って行くのである。アマゾン川の支流といっても川幅はとても広くて、見応えのある景色が広がる。ジャングルを流れる川の中を進んで行く船から景色を見ることなんてあまり体験できないであろう。

4日目の朝早く目が覚めると、乗客がハンモックを仕舞いだし下船の準備を始めていた。もうすぐ、マナウスに到着するのだ。我々も、ハンモックを仕舞ったりして荷物を1つにまとた。川の方を見てみると、川幅がとても広くなっていた。きっと、アマゾン川の本流に出たのだろう。支流でもとても大きな川だったのだが、アマゾン川の本流はとてつもなく広い。反対岸までは余裕で1キロ以上はある。

荷造りを終えて到着を待っていると、河岸に建物が見えるようになってきた。マナウスの街が近づいてきたのだろう。長い船旅を終えて、ようやくマナウスに到着する事が出来た。

とりあえず、マナウスの宿を探して荷物を置いて身軽になってから朝食を食べに行った。マナウスはとても大きな街である。見学する所も色々あるのだ。最初にアマゾネス劇場というところに行く。この劇場には学芸員らしき人がいて、色々と説明をしてくれながら劇場の中を案内してくれた。当時の贅沢な装飾や壮大な建築様式を見学できた。このアマゾネス劇場は今も現役の劇場として機能してるのだそうだ。立派なモノである

アマゾネス劇場の次にインディアンの博物館に行った。インディアンの食生活や遺跡から出てきた石器等を展示してあった。そう言えば、南米に来てからは始めての博物館だった。安い割りに満足のできる博物館だった。

マナウスに来る頃には俺の手持ちの現金はほとんど無くなっていた。大都市マナウスの銀行でお金を引き出すつもりだったから、この辺で現金が無くなってくるのは計画通りである。旅の最中はあまり大きなお金を持ちたくないので、大きな都市である程度の現金を引き出しながら旅をしているのだ。しかし、マナウスの銀行ではお金を引き出すことが出来なかったのだ。リオデジャネイロではちゃんと引き出す事が出来たのでマナウスでも引き出せると思っていた俺にとっては大きな誤算である。

機械では現金を引き出せなかったので、窓口に行って行員に相談してみる。なんと、俺のカードはマナウスでは使えない事が判明した。大ピンチである。今の俺にはリオデジャネイロまで帰るお金も無いのだ。最終手段として、非常用に持っていた2万円を両替することにした。それでも、リオデジャネイロまで帰るには難しいぐらいの金額である。俺は困ってしまった。少し考えたあげく、解決方法を見つけ出した。

マナウスからアマゾン川を遡るとペルーに行くことができるのだ。ペルーでは俺のカードで現金を引き出せるのは判っている。そう云う訳で予定を変更してマナウスからペルーに行くことにした。ペルーのアマゾン川沿いの大都市イキトスまでだったら、両替した2万円があれば余裕をもってたどり着けるようだ。しかも、ペルーはブラジルから比べると物価が安いので、お金の無くなってしまった俺にとってはありがたい事である。

そんな訳でこのマナウスでカナ(仮名)ちゃんとはお別れである。カナちゃんはこれからアマゾン川を下っていって、大西洋沿いを南下してリオデジャネイロに向かうのだそうだ。カナ(仮名)ちゃんと別れて久しぶりに一人旅になった。しかし、考えてみると飛行機での移動等を除いたら、パキスタンからここまでは、いつも誰かと一緒に旅をしていたような気がする。久々に一人旅に戻った訳である。

マナウスからペルーまでの船はポルトベリョからの船よりも大型の船だった。さすがアマゾン川本流である。しかし、お客の数は少なめでハンモックをゆったり吊るす事が出来た。この船にはポルトベリョからの船で見かけた夫婦が乗っていた。向こうも俺のことを覚えていた様でカナ(仮名)ちゃんがいなくなってる事を聞いてきた。片言の英語と単語だけのポルトガル語と使えるだけ精一杯のジェスチャーでカナちゃんは俺と別れてアマゾン川を下っていった事を説明して親睦を深めた。

この船は途中の村に生活物資を補給する役目も兼ねているらしいのだ。この辺は道路が整備されて無いようで船が唯一の交通手段らしい。1つの村で6時間ぐらい停泊して荷物を降ろすのである。全部人力で降ろすので時間が掛かるみたいだ。船を下りて村を見学しようとしても、船はいつ出発するか判らないので、おちおちと出歩く事も出来ない。

景色はさすがに雄大である。さすがにアマゾン川の本流である。とても広くて大きい。なんと、イルカを見る事も出来たのだ。川イルカらしい。しばらく船と一緒に泳いでいるみたいだが、気が付くとどこかに行ってしまっていた。

ちなみにこの船はペルーのイキトスまでは行かないのだ。タパチンガと言う国境の町までしか行かないのである。そこからはペルーの船に乗り換えて行く事になるのだそうだ。マナウスからタパチンガまでは5日間の船旅である。ところが、5日目の夕方になっても船はタパチンガに到着しないのだ。さすがの俺もそろそろ船旅が飽きてきた。毎日ハンモックだし、食事も同じだし、シャワーは濁りきった川の水である。

結局6日目になってようやくタパチンガに到着したようである。ほとんどのお客さんが船を降りている。俺も降りようとしたが、ここはタパチンガではなくてベンジャミンコンスタントという町らしいのだ。困っていると、ポルトベリョから一緒だった夫婦がタパチンガに行く小船があると教えてくれた。その小船に乗ってようやく国境の町タパチンガに到着した。

安宿を見つけてすぐにチェックイン。その宿の人がタパチンガに住んでいる日本人を知っているという。ホントかウソか解らないが、とりあえずその人の所に連れていってもらう事にした。すると、タパチンガに住んでいる日系人のお宅に連れて行ってくれた。彼は日系移民の次郎(仮名)さんで、若い時に日本からブラジルに移住して来たのだそうだ。日系2世の奥さんがいて男の子が2人いた。奥さんは片言の日本語を話せるけど、子供達は日本語を話せないみたいだ。

次郎さんの話だと、タパチンガはブラジルとペルーとコロンビアの3国の国境になっているのだそうだ。両替所がコロンビアにあると教えてくれたので自転車を借りて行ってきた。ブラジルとコロンビアの国境は国境とは言い難いモノであった。一応、警官が立っているが職務質問をするでもなく、パスポートをチェックするでもなく、詰め所の前にいるだけである。国境といってもなんの変化も無い普通の道路なのだ。通行自由の野放し状態になっている。しかも、国境のど真ん中には家まで建っていたのだ。不思議な国境である。コロンビアの両替所でブラジルのお金をペルーのお金に両替して、ブラジルに戻ってきた。なんだかこれも変な話である。

俺はこれからペルーに行くことを次郎さんに話すと、ブラジルの出国手続きをする所を教えてくれた。港とは全然違う所に在ったので、次郎さんに教えてもらわなければブラジルの出国にはとても手間取ったかもしれない。とても助かった。その後、夕方まで次郎さんの家にお邪魔して色々と話をした。ブラジルに入植した時の話や色々と面白い事を聞いて帰ってきた。

次の日、次郎(仮名)さんはイキトス行きの船の出発時間を調べてくれた。今日の夕方出発らしいのだ。それまでは次郎さんにお世話になることにした。タパチンガの刑務所に入れられている日本人と面会する事が出来た。彼はだまされて刑務所に入れられていると話してくれたが真実はわからない。その後は市場に行ったり、色々ともてなしてくれた。夕方近くなってきたので、小船に乗って対岸のペルーに行くことにした。次郎さんと奥さんが見送ってくれた。

ペルー側に着いたので、早速入国手続きをしに行く。近くの人に聞いたら、向こうの小屋が入国審査の場所なのだと教えてくれたので行ってみた。しかし、小屋の中には誰もいないので小屋の前で飲んだくれている人達に聞いてみた。すると、ゲラゲラ笑いながらその中の一人が立ちあがって、俺のほうにやってくる。なんと、彼が入国審査官なのである。酒臭い息を吐きながら俺のパスポートを見て入国スタンプを押してくれた。こんないい加減な事で良いのだろうかと思うけど、ここでは良いのだろう。俺としてはスタンプを押してくれれば文句は無い。船の出発まではすこし時間があったので、港の屋台で飯を食べながら船の出発時間を待った。

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