サファリパーク

2000年1月14日。早朝にケニアのナイロビの空港に到着した。とりあえず、ナイロビの中心まで行って竜岡(仮名)さんが教えてくれたホテルを探すことにした。フロカツ(仮名)さんはチヤリンコに乗って街の中心まで行くそうだ。飛行機に乗せて持ってきたチヤリンコの整備を始めて出発の準備をする。戸牧(仮名)君と俺の2人はタクシーに乗って竜岡さんが教えてくれたホテルに行くことにした。

飛行機の中ではほとんど寝ていなかったのでホテルに着くなり戸牧君と俺は少し仮眠を取ってフロカツさんが到着するのを待つ。初日はナイロビ市内を見て周り、夜食は3人で一緒に飯を食べることにした。

すぐにマラリアの予防薬を買って破傷風の予防注射をしてもらうつもりだ。その他には博物館を見学するぐらいだからナイロビの滞在期間は2、3日の予定だ。俺の目的はリオのカーニバルである。そのためには1ヶ月の間にジンバブエの首都のハラレに行かなければならないのだ。まだ、エジプトを出発したばかりなのに、のんびりとしてはいられないのである。

一緒の宿に泊っているフロカツ(仮名)さんと戸牧(仮名)君がサファリパークツアーに行くのだという。そのツアーは人数を集めれば集めるだけ一人あたりのツアー代金が安くなるそうだ。2人は当然俺を誘う。しかし、俺はサファリパークの動物などあまり興味がない。それよりもリオのカーニバルなのだ。それに間に合うように移動するのが最優先されるのでサファリパークツアーはお断りする。

しかし、フロカツさんと戸牧君はサファリパークツアーに行く仲間を増やして負けずに俺を誘惑する。キリン、ライオン、ゾウ、シマウマ…。誘惑に負けて俺も2泊3日のサファリパークツアーに行くことになってしまった。

一度行くと決めたら、すぐに行動開始である。次の日の朝には大型のワゴン車に乗って出発する事になった。俺とフロカツ(仮名)さんと戸牧(仮名)君にナイロビで出会った浩史(仮名)君とユキエ(仮名)ちゃんとアミン(仮名)ちゃんの日本人6人グループでサファリパークを目指す。

ナイロビの市街地を抜けてワゴン車はどんどん走り、いつまでもいつまでも走って行く。途中で1回休憩を取った。その休憩所が展望台のようになっていて綺麗な景色が広がってた。どこまでも、どこまでも大草原が広がっていて、その大きさ、緑の美しさがひしひしと伝わって来るのだ。写真や映像とは比べ物にならないほどの迫力で、圧巻である。6人ともすっかりその景色に見とれてしまった。

道はその大草原の奥まで続いている。我々の目指すサファリパークはその大草原の更に向こうのまだ向こうに有るらしい。お昼ぐらいにはサファリパークのキャンプ村に到着してそこで昼飯だと言っていた、しかし、2時になってもまだ着かないのである。みんな腹が減ってしまい、イライラしている。運転手兼ガイドのブライト(仮名)に聞いても「もうすぐ着くから待ってくれ」しか、言わない。2時半になってもまだ到着しない。我々の腹減り具合もピークを過ぎている。イライラも同じように限界に近づいてる。その中でもフロカツさんが一番イライラしてるみたいだ。彼のイライラは限界を超えていたかもそれない。

ブライトがシマウマがいると教えてくれた。本当にいた。野生のシマウマである。もう少し行くとインパラも発見した。サファリパークが近づいてきてるのだろう。その他にも動物を見る事ができて、少しはイライラがおさまる。が、腹は減っているのだ。3時ごろにようやくサファリパークのキャンプ村に到着した。ハラペコ6人にサンドイッチが支給されて機嫌が良くなった。

サンドイッチですっかり機嫌が良くなった6人は午後からサファリパークの観光に行く。我々がここまで乗ってきたワゴン車で観光に行くのである。サファリパークにいる動物は全部野生動物であり、途中でワゴン車から降りる事は禁止されている。って言うか、降りるのは怖い。

実はこのワゴン車はサファリパーク用に改造されてるのだ。どこがどの様になっているかというと、ワゴン車の屋根が上に持ちあがって、そこから景色や動物を見る事が出来るスグレモノなのだ。日本にはこんな車は無いので、なんと例えて良いか解らないのだけれど、とにかく景色や動物を見るのには最適は車なのである。

そのワゴン車に乗ってサファリパークを走りまわる。インパラが群れをなしている。バッファローもいた。我々以外にも観光のワゴン車やジープもいる。ブライト(仮名)はそれらのワゴン車やジープとすれ違う時にその運転手と何やら挨拶をしながらワゴン車を走らせている。

所々にインパラの群れが見えたけど、ほとんど無視でブライトはワゴン車を走らせる。すると、たくさんのワゴン車やジープが固まっている所に出くわした。その中心にはオスとメスのライオンがいて交尾をしていた。ジープやワゴン車がたくさん集まっている理由はそれだったのだ。ブライトはその情報を仲間から聞きつけて我々にライオンの交尾を見せてくれたのだろう。3、4メートルぐらいの距離でライオンの交尾を見る事が出来た。

気が付くとあたりはすっかり夕方になってしまっている。ライオンの交尾を見た後はひたすらキャンプ村を目指して帰る。途中で夕日が綺麗に見えた。遠くでゾウの親子が歩いているを見る事も出来た。インパラやバッファローの群れもいて感激である。キャンプ村に戻った時にはあたりは真っ暗になっていた。

夕食はシチューで美味しかった。夕食の後は6人で取りとめもなく話をした。今日の事や明日の期待などを話してるうちに6人の仲が深くなってきた。明日のツアーも楽しみである。

戸牧(仮名)君から1つ提案があった。それはみんなの呼び名のことである。俺は「レッツゴローチャン」と呼ばれ、フロカツサンも「フロカツサン」、浩史(仮名)君も「ヒロシクン」、ユキエ(仮名)ちゃんは「ユキエチャン」だし、アミン(仮名)ちゃんは「アミンちゃん」と呼ばれている。みんな柔らかい呼び名で呼ばれていたのに戸牧君だけが苗字で呼ばれているのだ。戸牧君は自分だけ堅苦しく呼ばれるのが気になっていたらしい。そこで彼が考えた新しい自分の呼び名は「トマピョン」である。しかし、それは可愛すぎるし呼んでるこっちが恥ずかしくなる為却下された。それで新しく決まった戸牧君の呼び名は「と」である。本人は不服だったらしいが、しだいにその呼び名は定着していき、サファリパークの夜は更け行った。

朝、早く起された。朝飯を食べてツアーにいく準備が出来たらサファリパークに出発である。1時間ほど走るうちにたくさんの野生動物を見る事が出来た。インパラの群れにバッファローの群れ。シマウマの群れもいる。イボイノシシが走り抜けて行く姿が可愛い。ゾウの親子は今日も遠くを歩いている。

それに引き換え肉食動物はやる気がない。ライオンの群れはみんな寝ている。ヒョウは2匹で木の下に寝転がってる。3メートルぐらいの距離まで近づいて行くのだけれども、奴らは寝転がったまんまでやる気ナシ。更に走るとサルの群れに出会った。ワゴン車を怖がるでもなくこちらを観察してるみたいだった。

そのうちに大きな池にやってきた。ここでワゴン車を降りて大きな池の岸まで行ってみるとカバの群れがいた。ブヒィーッと鼻を鳴らすと、水シブキがこちらまで飛んでくるみたいだ。臨場感満点である。ガバーッと口を開けてあくびをするカバもいた。なんとものんびりとしている。我々の対岸にはワニが1匹、置物のように動かないで固まっていた。

カバの臨場感を楽しんだらお昼近くになっていた。昼飯はピクニック気分でサンドイッチである。ブライト(仮名)が選んでくれたピクニックの場所は遠くまで見渡す事が出来る大草原の真ん中だった。我々の他にもう1台のワゴン車がやって来て2グループで一緒にピクニックである。ブライトともう1台のワゴン車の運転手がチャキチャキと昼飯の準備を進めてくれて、みんなでサンドイッチをいただく。遠くにバッファローの群れが見える最高の場所である。大自然の中でのんびりとピクニックを楽しむことが出来た。

午後からもサファリパークを周る。バッファローやインパラはたくさん見ることが出来たが、肉食動物はあまり見るとが出来ない。絶対数が少ないのであろう。するとチーターが歩いているのを見ることが出来た。そう言えばチーターを見るのは初めてだった。1匹だけでカッコ良く歩いていた。ブライトはできるだけ近くまでワゴン車を近づけてくれたので、間近でチーターを見ることが出来た。その他にヒヒの群れにも出くわした。サルと同じように我々の事を見ているようだった。

遠くにキリンがいた。やっとキリンを見つける事が出来た。何故かキリンは我々の前には出てきてくれなかったのだ。フロカツ(仮名)さんの一番の目的はキリンだったので、キリンを見れて感激してるようだった。キリンは大きくて不思議な生き物で、見ていて飽きなかった。

今日は1日中サファリパークを走りまわり野生動物をたくさん見ることが出来た。あと我々が見ていないのは黑サイぐらいであるが、黑サイは絶滅の危機に直面してるのでチョットやそっとじゃ見る事が出来ない。見れるか見れないかは黑サイの気持ちしだいである。

今日は夕食の後、キャンプ村にマサイ族の若者がやって来てマサイダンスを見せてくれた。キャンプファイヤーを囲んでマサイダンスを踊ってくれた。最後の方は我々にダンスを教えてくれてみんなで一緒にダンスを踊って楽しんだ。

今日はとうとうサファリパークの最終日である。今朝は朝食も食べずにサファリパークに行く。早朝のサファリパークをワゴン車で走る。昨日はやる気のカケラもナシで寝転がっていたライオンやヒョウが動いているのである。やる気全開で肉を食らっているライオンや、縄張りをパトロールしているのかどうかは知らないけれど、歩きまわっているヒョウを見ることが出来た。

昼間は寝転がってる肉食動物も早朝のサファリパークではしっかり働いているのだ。感激である。しかも、キリンをもう一度見る事が出来た。昨日よりも近い所まで寄っていくことが出来て大満足である。我々の感激ぶりを見て、ブライト(仮名)もいつもより余計にキリンを見せてくれているみたいだった。

10時頃には遅い朝食を食べるためにキャンプ村に戻ってきてた。朝飯を食べたら荷造りをしてナイロビに帰るのだ。黑サイを見ることが出来なかったけど、その他の動物は間近で見ることが出来て大満足なサファリパークツアーになった。ナイロビまでの帰りのワゴン車の中はみんな疲れて寝てしまっていた。

最初はサファリパークなんてどうでも良かったんだけど、とても楽しくて動物達を間近に見ることが出来て感激した。フロカツ(仮名)さんと戸牧(仮名)君にしつこいぐらい誘惑してもらって感謝している。俺が思っていた以上に素晴らしい世界が広がっていて素敵な体験をする事が出来た。

ちなみに、ナイロビに戻ってくる頃には戸牧君の呼び名はすっかり「と」に定着していた。

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