ピラミット盗頂

世界最大のピラミットはエジプトのクフ王のピラミットである。有名なエジプトの三大ピラミットの中で一番大きなピラミットの事だ。そのクフ王のピラミットに登ってみようというのである。しかし、普通に観光に来た人達がピラミットに登る事は禁止されている。

だが、サファリホテルの情報ノートにはクフ王のピラミットに登る方法も書いてあるのだ。そして、週に1回ぐらいは旅人達が何人か集まってチームを作ってピラミットの盗頂に挑戦している。普通に登る事が禁止されているピラミットにどうやって登るのかというと、夜にピラミットに忍び込んで勝手に登ってしまうだけである。当然これは立派な犯罪である。しかし、ピラミットを登りに来る人間は後を絶たない。

俺がエジプトに到着して1週間ぐらい経ったころ、ピラミットに登る計画を立てている4人ぐらいの集団がいた。すかさず俺もそのピラミット盗頂計画に加えてもらう事にした。何故、「登頂」ではなく「盗頂」なのかというと、ピラミットを警備しているポリスたちの目を盗んで深夜に登るからである。

昼の間にサファリホテルの情報ノートを読んだり前回盗頂に成功してる人に話を聞いたりして入念に計画を練っておく。ピラミットの盗頂は失敗する事も多いのだ。警備のポリスに見つかってしまうと当然ながらピラミットに登る事は出来ない。持ち物検査をされて、お金などを巻き上げられて、敷地の外に追い払われてしまうのだ。しかし、下手をすると捕まって監禁されて日本大使館に連絡されて強制送還なんて事もあるかもしれないのだ。ココロして取り掛らなければならないスリルに満ちた一大イベントである。

計画を練っている段階で人数が増えていき最終的には8名になった。2台のタクシーに分乗してピラミットの近くまで行き、途中でタクシーを降りる。ピラミットの正面入り口には警備のポリスがいるので、そこからは侵入不可能である。

小さな村を通りぬけ崖を登ってピラミットの敷地に侵入するのだ。サファリホテルの情報ノートには簡単に村を通り抜けるルートも載っているのだが、曲がらなくてはならない角が本当にここなのかどうかが分らずに迷いそうになる。正しいと思う方向に進んで行くと無事に村を通り抜けて崖の下に出た。その崖を登ってピラミットの敷地に侵入する事に成功した。近くの遺跡に身を隠しながら、ピラミットに近づいていく。ここまでは作戦通りにうまく行っている。誰一人としてポリスに見つかっていない。そして、最大の難関であるポリス小屋の前も一人一人順番になって通過した。ポリスに見つかることなく最大の難関も通り抜ける事に成功。8人とも無事にピラミットの下まで辿り着く事が出来た。

ポリスに見つからないように遺跡の陰に身体を隠しながらここまでやって来れたのだ。あとは登るだけである。しかし、ピラミットまでの最後の10メートルは身を隠す遺跡群が無いのだ。我々8人は慎重にあたりを見渡して警戒しながら最後の10メートルを進んでいく事にした。音を立てないようにゆっくりとピラミットに向って行き、ピラミットに手をかけた。すると、野犬が吠えながら我々の方に走ってきた。更に、その騒ぎを聞きつけてポリス達もやって来た。ポリスの叫び声が聞こえた時には、我々8人はバラバラになって遺跡の中に逃げ隠れた。その騒ぎの間に誰かが捕まる声がした。

最初からの取り決めで、誰かが捕まっても無視してピラミットの頂上を目指す事にしていた。一人が捕まったために全滅してしまうのを避けるためだ。それにはメンバー8人とも同意した上で、ここまでやって来ている。最後には自分の身は自分で守るのが当たり前である。

俺は遺跡の陰に隠れてじっとしていたが、しばらくしてポリスに見つかってしまいポリス小屋に連行されてしまった。俺が連れて行かれたポリス小屋では先に捕まった人が取調べを受けていて、そこに俺が入っていった。俺の後にもう一人捕まったみたいでポリス小屋に連れてこられて、みんなと再会した。ポリスは我々の持ち物をチェックしてお金や、カメラ、その他の貴重品等を全て調べる。そして怒られて、30分ほど拘束されたあとに、お金以外の物を返してもらい解放された。捕まったメンバーは全部で5人だった。

ポリスに捕まった5人のピラミット盗頂は失敗である。ピラミットの真下まで行く事が出来てあとは登るだけだったのに、最後の所で捕まってしまったのだ。落ち込みも大きい。バスに乗ってサファリホテルに帰る。帰りの道中はみんな無言で落ち込みムードが漂っていた。

そして、残りの3人はピラミット盗頂に成功したらしい。遺跡の中で1時間ほどひっそりと隠れていて、ほとぼりが冷めた頃にピラミットを登り始めたらしいのだ。やはり、頂上からの景色は素晴らしかったみたいだ。羨ましいかぎりである。成功と失敗の別れ道は遺跡の隠れ場所だったみたいだ。成功した3人に話を聞いてみると、予想できないほど見つかりにくい場所に隠れていたらしいのだ。

今回のピラミット盗頂チームは8人中、3人が成功である。成功率としては低くないであろう。それぐらい、ピラミット盗頂は難しいのである。全滅して帰ってくるチームも結構あるのだ。次の日に8人で夕食を共にして、我々のピラミット盗頂チームは解散した。

我々がピラミット盗頂に失敗してからも、多くの人達が盗頂チームを作って深夜のピラミットに挑戦していた。盗頂に成功して朝日を拝んで帰ってくるチームもあれば全員失敗して帰ってくるチームもあり様々である。しかし、俺のピラミット盗頂の意欲は薄くなってしまい、チームを作ってもう1度挑戦する気も無くなってしまっていた。

サファリホテルでダラダラ生活を送り初めて1ヶ月以上経ったある日、深夜2時半ごろに目が覚めた。なにか食べようと思いホテル内をうろつくと、今夜もピラミット盗頂チームがこれから出発するために最後の打ち合わせをしていた。みんなで情報ノートのピラミット盗頂日記を読みながら不安と期待が交錯しているみたいだ。

俺は前回失敗してるとはいえピラミットの真下までは行く事が出来ているのだ。そこまでの道のりやタクシーを降りる場所など、俺の知っている情報を彼らに教えてあげる。そのうちに、俺も行きたくなってしまったのだ。寝起きで、突然ではあるけれど今夜のピラミット盗頂チームに入れて貰うことにした。

ピラミットの真下まで行っている経験があったので、出発間際のぎりぎり参入ではあるけど、にわかリーダーに担ぎ出されてピラミットの盗頂に出発した。

タクシーに乗って前回と同じ道を進んで行き降ろしてもらう。小さな村では迷う事無く崖下に到着。崖を登るのも簡単に登れる所を知っていたので、そこから登る。遺跡の中も身を隠しながらピラミットに近づいて行ったので問題なし。前回ポリスに捕まったピラミット下までは簡単に来る事が出来た。

前回はここでゆっくりと登り始めたから捕まったのだ。今回は遺跡から出たら、走ってピラミットに取りついて下も見ないで登っていく事にした。意を決してダッシュで登り始める。5段ぐらい登った所で犬に吠えられたけど、構わずに登り続けた。ピラミットの半分ぐらいまで登ってしまえばポリスも追ってこないのだという。我々は全力でピラミットを登り続けている。しかし、いくら登っても頂上に着かないのだ。疲れてしまったので途中で少し休憩をしながら登っていく。だいたい20分ぐらいで頂上に到着した。俺が頂上に着いた時には他のメンバーは全員頂上にいた。全員盗頂成功である。

今回の盗頂チームは全部で5人。ピラミットの頂上で5人の成功を喜び合った。騒いだり、フラッシュを光らせて写真を撮ったりするとポリスに見つかってしまう危険がある。そこで朝日を見るまではポリスに見つからないようにおとなしくする事にした。ピラミットの頂上は結構広くなっていてタタミ10畳ぐらいの広さがあった。そのピラミットの上からはエジプトの夜景を見る事が出来た。滅多に見れない景色で、とても綺麗な夜景だった。夜明け前のピラミットの頂上はとても寒かった。ある程度の防寒の備えはしていたのだが、それでも少し寒かった。

改めて盗頂の喜びを噛み締めながら5人で朝日を待つ。しだいに空が明るくなってきて辺りの景色が見えてきた。もう少しで朝日を拝めそうである。5人でポーズを作って写真を撮ってるうちに太陽が昇ってきた。ピラミットの上から見る朝日は格別に綺麗だった。5人とも言葉を失って朝日に見入っていた。

ピラミットの上で朝日を見る事が出来たし、写真も全て撮り終えて大変満足である。太陽が昇りピラミットの上からの景色がくっきりと見えるようになった。少し朝靄がかかってるがカフラー王のピラミットもスフィンクスも見下ろす事が出来る。とても気持ちがいい。

余り長くピラミットの頂上に居ることも出来ないのでそろそろピラミットを降りる事にした。しかし、登って来た時は暗かったし、上しか見てなかったので実感は無かったのだけどかなりの高さがある。それに、かなり急斜面なのだ。あまり下を見ないようにして、1段づつ降りていく。

登る時は一気に登って来たけど、降りるときはゆっくり降りる。もう、明るくなってるのでポリスに見つからないようにピラミットを降りるのは不可能である。一般的にピラミット盗頂チームは登る時に見つからなくても降りるときにはポリスに捕まってしまうのである。

我々5人は無事にピラミットを降りてきた。当然のごとく下でポリスが待ち構えてるだろうと思っていたがポリスは一人もいない。捕まる覚悟はしていたのだけど誰もいなかったので、そそくさと来た道から帰ることにした。駆け足で遺跡群を通り抜けて崖を下って小さな村まで来る事が出来た。我々5人は帰りもポリスに捕まらずに済んだのだ。

今回のピラミット盗頂は帰りもポリスに捕まらなかったのだ。これは奇跡的な事である。今回のピラミット盗頂成功の記録をサファリホテルの情報ノートに書き留めて今回のチームは解散した。

<<前のページ | シルクロードの旅に戻る | 次のページ>>