イエメン爆走

目指すは砂漠の摩天楼、シバームである。誤解のないように書いておくが「シバームとコーカバン」のシバームとはまったく別の町なのだ。摩天楼のシバームは首都のサナアからは日帰りできないぐらい遠い所にあり、途中にある町も見ながら旅をすると1ヶ月ぐらい掛かるらしい。イエメンビザの有効期限ぎりぎりである。観光ポイントは菊代(仮名)ちゃんとあかり(仮名)さんがチェックしてくれているから、俺は二人について行くだけのなんとも至れり尽せりな旅になりそうだ。だけどもし、俺が二人について行けなくなったら、その辺においていってもらえば良い。その方がお互いに楽である。

最初に目指すは港町のアデンだが、まず、途中にあるイップという街で一泊する。サナアをお昼前に出発してイップに向う。移動手段は乗り合いタクシーで、イエメンの主要な交通手段になっている。我々の乗ったタクシーはもの凄いスピードで突っ走りだした。その恐ろしいスピードに3人ともビビりながら、口には出せないでいた。何せ本当に恐いスピードなのだ。だけど、移動中の景色は砂漠の国なのにとても雄大だった。

夕方近くなって、無事にイップに到着。菊代(仮名)ちゃんが調べてくれていた安宿にチェックイン。すぐに雨が降ってきたが、30分ほどで雨は上がってくれた。3人で夕食に行って、ついでに夜のイップを探索する。

次の日の朝早く、イップからは片道30分ぐらいの所にあるジブラという街に行く。山合にある小さな村だ。そこのモスクが素晴らしいというのでやってきた。モスクはもちろん素晴らしかったけど、その村自体がとても素晴らしかった。景色も良いし、人も良いのだ。異国の3人を温かく迎えてくれた。首都のサナアもそうだったけど、イエメン人は親切な人が多い。

ジブラ観光後、午前中にはイップに戻って旧市街を探検。イップの旧市街もサナアの旧市街とはまた違う味が出ていていい感じだった。一通り見て回り、お昼ごろにはいったんホテルに戻って休憩。午後一番でアデンに向う。今回の移動も乗り合いタクシーだ。しかし、客が集まらないので、なかなか出発できないでいる。2時間待って客が集まり、ようやく出発。この運転手もひたすらスピード狂だった。けして性能が良いとは言えないおんぼろ車で、どうしてこんなにスピードが出るのだろうと思うぐらいのスピードで走りまくる。スピードメーターは壊れているので今、どれぐらいのスピードが出てるのかは判らない。それも手伝って恐ろしさが膨れ上がった。そのうちに、雷が鳴って雨が降り出してきた。それでも、運転手のおじちゃんはスピードを出したまんま。こわーいよー!

午後7時ごろ、事故に遭う事無く港町アデンに到着。早速、ホテルにチェックインして夕食に行く。港町なのでさかな料理を食べる事にした。美味しかった。

今日はアデン観光。有名な詩人さんが住んでいた家があるというので見に行く。ランボーハウスと云うらしい。これも菊代(仮名)ちゃんが調べてくれていた。ランボーハウスに到着してみると、残念ながら工事中だった。でも、工事してる職人さんにお願いしたら中を見せてくれた。おかげで、お目当ての詩人さんの似顔絵が書かれた壁を見る事が出来た。やったね。

海岸が近くにあったので行ってみた。海はとてもきれいだった。我々が見ている海はアラビア海。ここが、海のシルクロードの中継地点だったのだ。釣りをしている現地の男の子達を発見。ぼちぼち釣れているみたいだ。夕方、ホテルに戻るとよし子(仮名)さんが来ていて再会。今日は4人で泊まることにした。

夜、夕食を食べた後に4人でベリーダンスを見にいくことにした。ベリーダンスはちょっと遠くのレストランでやっているので4人でタクシーに乗って出発。そのレストランには生バンドが入っていて、いかにもベリーダンスという感じだ。我々4人は2時間ほど生バンドの演奏を聞いていた。でも、待てども待てどもお目当てのダンスが始まらない。やっと、一人の女の人が踊りはじめた。そして、1度踊り始めると、1人で1時間以上踊りつづけていた。スゴイ。彼女に代わって二番目のダンサーが踊りだす。腰をクネクネ、踊りまくる。二番目の彼女も1時間以上踊りつづけている。しかし、この時点で夜中の2時。明日の出発が早いので、途中だけど4人ともホテルに戻ることにした。タクシーでホテルに帰る途中、真夜中の街を走っている犬の群れをたくさん見た。昼間は犬なんて全然見かけなかったけど、夜になると行動を開始するみたいだ。チョッピリおっかないけど、彼らもたくましく生きているのだろう。

今日は移動日。よし子(仮名)さんも加わって、今日から4人で旅をする事になった。アデンからムカッラという港町に行くために朝5時に宿を出て、ムカッラ行きの乗り合いタクシーに乗る。昨日はベリーダンスで遅くなってたから、とても眠たい。4人ともタクシーの中では大半寝ていた。タクシーはこれまた、猛スピードで走る。当たり前の様にスピードメータは壊れているので、時速何キロぐらいで走ってるのか解らない。

今日はほとんど1日中砂漠の中を走った。中国で通った石や岩がごつごつした砂漠でなくて、どこまでもさらさらの砂が続いている砂漠だ。我々日本人のイメージに近い砂漠を猛スピードで突っ走る。所々は海岸線も走る。でも基本的には砂漠なのだ。

砂漠が海まで続いてるのか?もしくは、砂浜が波打ち際からどこまでも、どこまでも広がっていて、いつのまにか砂漠になっているのか?不思議な気持になる。どちらにしても綺麗な景色だった。

とにかく、どこまで走っても砂の世界が広がっていた。途中で何回か休憩を取るが、今日はひたすら走りっぱなしだ。イエメン旅の中で一番の長距離移動なのだ。空が暗くなってきた頃、ようやくムカッラに到着した。すぐに宿を決めて、4人で夕食に出た。お腹がペコペコだ。俺はなんだか風邪をひいてしまったかもしれない。チョッピリ体が重い。

朝、4人でムカッラ見物に出かけた。ムカッラもアデンと同様にシルクロードで栄えた港町だ。4人で街を見物してるうちに海岸に出た。波と戯れる。最初は足だけの筈だったのに、4人とも調子に乗ってしまいズボンをべチャべチャにしてしまった。気温が熱いからなのか、昨日のけだるさが残っているのか、俺はとても疲れてしまった。首都のサナアは標高2000メートル以上の高地にあるから、あまり暑くなかったけど、アデンもムカッラも港町。日中は「暑い」を通り越して「熱い」のだ。そんな訳で午後からは宿に戻ってのんびりと洗濯タイム。ここは砂漠だから、洗濯物がすぐに乾く。今日は、昨日からの身体の重さがどうも抜けきれてなかった。ひょっとしたら本格的に風邪をひいてしまったのかもしれない。今のうちに何とかしておきたい。

ムカッラから内陸にあるサユーンという町に向う。朝早くに出発。今回は乗り合いタクシーではなくてバス。しかし、それでもスピード狂である事には変わりない。ただ、ここまで来るとイエメン人のスピード狂にも馴れてきた。今日も、ひたすら砂漠を走る。この辺は砂漠しかないのだろう、どこまでも続いている。お昼頃には砂漠のオアシス、サユーンに到着できた。

サユーンという街に外国人が訪れる時には滞在許可証が要るというのだ。ポリスに行ってすぐに発行してもらい、宿にチェックイン。金曜日だったので、ほとんどのお店が閉まっていた。イスラム諸国は金曜日が休日なのである。しょうがないから、今日は4人とものんびりと休む事にした。夜、宿の屋上から星を見た。砂漠の中の小さな町だから、明かりが少なくて星がとてもよく見える。しばらく星を眺めていると流れ星を見る事が出来た。コウモリが飛んでいてビックリした。

サユーン2日目。幸いな事に俺の体調はだいぶん良くなってきた。問題なく旅ができそうだ。昨日、休みだった王宮博物館を見学しに行く。昼飯を食べた後、午後からはいよいよシバームの摩天楼を見に行く。サユーンから乗り合いタクシーに乗って約30分で到着。遠くからでもそれと判る高層ビル郡が建ち並んでる。一歩中に入ると、ニワトリやヤギがのんびりとその辺で放し飼いにされていて、子供達が元気に遊んでいる。とてものどかな昼下がりだ。日中の熱さも影響してるのか、閑散としていた。我等4人は土壁で出来た摩天楼の隙間をぐるぐると歩きまわった。あかり(仮名)さんのアラビア語のおかげで、いつもの様にイエメン人と仲良くなり、ビルの中に入れてもらう事が出来た。ひたすら階段を登って、部屋に案内されてチャイをご馳走になった。建物の中はサナアのイエメン人の家と似たような感じだった。普通の民家の普通の生活がそこには有った。しかし、普通の観光ではこうやって民家の中にお邪魔する事は絶対に出来ないだろう。貴重な経験である。

摩天楼の町、シバームの隣に丘があるので、そこからシパームの町並みを見る。こっちにも町があって、子供達が遊んでいる。とてものどかだ。少しの間、子供達と戯れる。丘の上に登ると、見晴らしが良くて砂漠の中にいきなり現れるシバームの摩天楼が綺麗に見えた。更に綺麗な夕日も見る事が出来て満足。

夕日が沈んでしまったので暗くなる前に早くサユーンに戻りたい。子供達とお別れして幹線道路まで歩く。子供達は、まだ我々にかまって欲しいらしく、石を投げてくる。無視して歩いてたけど石が近くまで飛んできて危ない。走って子供達を追いかけて懲らしめる。すると、子供達はすぐに逃げてしまう。その隙に我々はそそくさと退散してしまう事にした。それにしても、石を投げるのは危ない!親も怒ったりしないんだろうか?

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