イランビザの彼方

フンザに戻る前にイランビザの申請を済ませておきたい。しかし、俺と一緒の部屋の梅(仮名)さんがさんざん動き回って、イランビザ入手に苦労しているのだ。旅の素人の俺がすんなりとイランビザを手に入れるのは難しそうだ。梅さんはパキスタンでのイランビザ発給を諦めてインドに行こうかと、迷っていた。パキスタンよりもインドの方が簡単にイランビザを発給してくれるらしいのだ。

こんなにイランビザを取るのに苦労するなんて知らなかった。イランは諦めないとならないのか?パキスタンで俺のシルクロードの旅は終わってしまうのだろうか?ま。それも、いいでしょう。中国を1ヶ月近くも回ることが出来たし、最初はパキスタンに入れるかどうかも怪しかったのだ。パキスタンに来れただけでも大したモノだ。イスタンブールは夢のまた夢。最初っから行ける訳がないと思っていたのだ。それに、パキスタン国内もまだほとんど見てない。パキスタン観光が終わってから、次の事を考えても遅くないでしょう。それに1ヶ月後ぐらいにはイランビザを発給してくれるように成ってるかもしれないしね。

ポピュラーインには情報ノートなる物が有って、そこに泊まるバックパッカー達が自分の経験した事、思った事を情報として、そのノートに書いてくれているのだ。中には新鮮で役にたつ情報も書いてある。ポピュラーインの近くの美味しい飯屋さんから、チベットのトレッキングの事等々、色々書いてあって読むだけでも楽しい。

日本への絵葉書を出して、ポピュラーインに戻ってくると、髭面の日本人の男の子が「オネー言葉」でみんなと喋っている。俺、ビックリ。驚いてしまったのでさっさと部屋に戻った。梅さんに聞いてみると、あの「オネー言葉」で喋ってる人はマリア(仮名)ちゃんと云って、新宿2町目で働いている本物のオカマちゃんなのだと。オカマの人でもバックパッカーをやってるんだ。いろんな人がいるものだ。俺は思いっきりカルチャーショックを受けちゃった。世間は広い。今度、マリアちゃんとお話ししてみよう。

ポピュラーインには他にも面白い人が入れ替わり立ち代り20人ぐらいが泊まってたけど、シャイな俺はそんなに大勢と交流を持てなかった。が、その中で菊代(仮名)ちゃんと仲良くなった。彼女はいろんな所を旅した事のあるベテランバックパッカーだ。お互いに旅の予定を話しているうちに、俺のシルクロードの旅がパキスタンで終わりになっりそうな事を話した。すると、菊代ちゃんは「じゃー、イエメンに行こうよ!」と、誘ってくれた。菊代ちゃんの今回の旅の目的はイエメンで、砂漠の中の摩天楼を見にいくのだそうだ。俺にとってはイエメンって何?って感じだ。そんな言葉は初めて聞いたのだ。

菊代ちゃん曰、イエメンとはシヴァの女王で有名なアラビア半島にある小さな国で、とてもステキな所らしいのだ。それに、イエメンは海のシルクロードとして栄えたので、ある意味シルクロードの旅って云う趣旨からは外れていないらしいのだ。

今のところ、菊代ちゃんはタロット占い師のあかり(仮名)さんと二人でイエメンに行く予定。出発の日は3日後の朝早く。パキスタンからは飛行機でイエメンまで行って、1ヶ月ちょっとイエメン国内を観光してパキスタンに戻ってくるのだそうだ。

陸のシルクロードがイランビザによって断念させられそうな時に海のシルクロードという選択肢を菊代(仮名)ちゃんが持ってきてくれた。でも、俺には突然過ぎるし、そんな話しは夢物語だ。菊代ちゃんはイエメンはお薦めだからと俺を誘ってくれる。そんなにいい所だったら、俺も行っみたい気はするけど、なんせ聞いた事のない国だし飛行機で行かなければならない遠い所だ。フンザで氷河トレッキングに誘われてるのとは訳が違う。

更にもう1つの問題として、もし、俺が二人と一緒にイエメンに行くとしたら、チケットの手配などに動けるのは2日しかないのだ。そのあいだにイエメンに行く手配を全部やるのなんで無理なお話だ。やっぱりイエメンは夢物語だ。すると菊代ちゃんは俺がイエメンに行くためのイエメンビザの取り方、イエメン大使館までの行き方、飛行機のチケットの取り方、等々を一つ一つ具体的に説明してくれた。菊代ちゃんの説明だと2日で出発の準備が出来てしまいそうだ。何だかイエメンに行けるかもしれない。

明日の朝から動き回れば菊代ちゃんと一緒にイエメンに行ける、って言うか連れてってもらえる。これはある意味、シルクロードの旅が始まって最大のハプニングをいえる。イエメンという国に行ってみたい気もするけど、それと同じように不安も付きまとう。

菊代ちゃんが一緒にイエメンに行くという占い師のあかり(仮名)さんは菊代ちゃんが前回旅した時に知り会った人なのだそうだ。今回の旅の途中で菊代ちゃんと偶然再会して、菊代ちゃんがイエメンに誘ってみたら、あかりさんは行く気になったのだ。そのあかりさんも今ポピュラーインに泊ってるらしいけど、俺はまだ誰があかりさんなのか分らなかった。菊代ちゃんの説明だとシッポのはえた人なのだそうだ??いかにも占い師らしい?

もし、俺がイエメンに行く事にしたら菊代ちゃんとあかりさんに俺を含めた3人旅になるのだという。イエメン行きの事は今晩、じっくり考えてみよう。

その夜、ポピュラーインに泊まってる人達と旅の話をする機会を得た。マリア(仮名)ちゃんはパキスタン最高♪と、絶賛する。パキスタンでは長い髪の人は女性と思われるみたなのだ。女性は公共の場で手を振るようなハレンチな事はしない。そんな訳で、髪の長いマリアちゃんがパキスタン男性が山のように乗っているバスに手を振ると一斉に歓声を上げて喜んでくれるのだ。俺も髪が長かったからバスに手を振ってみると歓声が上がる。チョッピリアイドルになったみたいで面白い。手を振ると歓声が返ってくるもんだから、面白くなってバスを見るたびに手を振ってた。

フンザの話しも出た。「天空の城ラピュタ」を連想した事を話したら、誰かがフンザは「風の谷のナウシカ」の舞台になった村だと教えてくれた。どちらも宮崎アニメだ。俺が「ラピュタ」を連想してしまってもおかしくはない訳だ。イランビザに四苦八苦していた梅(仮名)さんはパキスタンでイランビザを取る事を断念して、インドに向うことにしたらしい。疲れた顔をしていた。梅さんはあかり(仮名)さんとタロットの話しをしていた。なんと、梅さんもタロット占い師だったのだ。占い師が二人も同じ宿にいる。世の中不思議な事が沢山あるもんだ。その時、あかりさんと初めて挨拶した。ちょっと気が強そうだけど普通の女性に見えた。あかりさんの後ろ髪が1束だけ長くなっていてシッポみたいになっていた。

色々考え込んだけど、めったにないチャンスだからイエメン行きを決定した。海のシルクロードだもん。旅の目的からは外れてないし、なるようになるでしょう。

早速朝から、イエメンビザを取るために日本大使館にいってレターを発行してもらい、何故かイエメンビザを貰うのに必要なエイズ検査を受けて、イエメン大使館にいってビザを貰う。それと同時に飛行機のチケットを買いに行く。その合間に日本の友達や家族にイエメンに行く事をお知らせする絵葉書を書いて出してきた。ドタバタと過ぎて行った2日間だった。

無事にイエメン行きの手続きを終わらせる事が出来、菊代(仮名)ちゃんとあかり(仮名)さん、それに俺を含めた3人で出発する。ビザの延長までしたのにパキスタン滞在は1週間しかなく、フンザに戻る予定も取り止めにして、パキスタン観光もまったくと言っていいほど何もしないけど出国する事になってしまった。

菊代ちゃんとあかりさんはイエメンからパキスタンに戻ってくるけど、俺はイエメンからエジプトに行く事にした。だから、飛行機のチケットも往復じゃなくて片道チケットを購入。イエメンからエジプトまでのチケットはイエメン国内で買う予定。なので、イエメン観光の途中で二人とは別れて別行動する予定だ。お互いにその方が楽だろう。

ポピュラーインのみなさまに見送られて3人で空港に向う。空港では何故か3回も荷物を開けられた。日本人をなめてるんじゃないだろうか?チケットカウンターでは俺の片道航空券ではイエメンには入国できない。だから飛行機にも乗せれない、と言われた。「そんなはずはない」と言って菊代ちゃんが戦ってくれた。「イエメン大使館は問題ないといってくれてんだから、飛行機に乗せろ」と言って30分ぐらいチケットカウンターの人達と言い争う。菊代ちゃんのパワーに圧倒されたのかどうか分らないが搭乗券を発券してくれた。ちなみに、俺は菊代ちゃんのパワーに圧倒されてほとんど何も出来ずにいた。

そんなこんなで波乱含みではあるけど、無事に飛行機に乗ることが出来て3人のイエメンの旅が幕を開けた。

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