松ぼっくりの歌

子供の頃の父親は仕事で忙しく、朝早くに家を出て、帰ってくるのは夜遅かった。休みの日の父親はほとんど寝ていた。なので、父親に遊んでもらった記憶はほとんどない。たまに遊んでもらえたとしても子供の扱いの下手な父親と遊んでも、面白くない。俺が小さかった頃はたいてい泣かされてしまったので、父親と遊んでいても面白かった記憶は少ない。そんな父親から教えてもらった歌が1つだけあった。松ぼっくりの歌だ。

なぜ、父親が松ぼっくりの歌を歌ってくれたのは良く判らない。松ぼっくりの歌はとても短い童謡なのだけれども、どんぐりの歌やおサルの歌などの童謡と比べると格段に知名度が低い。今になって思い返すと俺の父親はどうしてこんな知名度の低い松ぼっくりの歌を知っていたのか判らないが、今まで父親にそのことを聞いてみた事もなかった。

松ぼっくりの歌しか歌わない父親に他の歌を歌って欲しいとせがんでも、松ぼっくりの歌しか歌ってくれなかったのだから子供の俺はなんとなく松ぼっくりの歌を覚えてしまっていた。

旅の途中で独りになっていて話す相手がいない時など、いろんな歌を口ずさみながらバスや列車に揺られていた。知っている歌を歌いまくっているうちに松ぼっくりのも頭の中に浮かんだ。どうして、旅の途中で松ぼっくりの歌なんて頭の中に浮かんできたのか知らないが、松ぼっくりの歌はとても短いので歌いやすいし、なんとなくメロディーが頭に残ってしまうからかもしらない。

外人に日本の歌を催促されてマイクを渡されてしまい、松ぼっくりの歌を歌ってあげて大喝采を貰った事もある。そんな風に最近になって松ぼっくりの歌を思い出すようになった。俺が小さい時に父親から教えてもらった唯一の歌が、こんな風に頭に残るようになるとは思わなかった。

2010年2月12日 記入

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