富士山登山

2009年8月25日~26日にかけて登ってきた富士山登山の記憶。

数年前から富士山には登ってみたいと思っていた。東京に住んでいるうちに富士山登山を現実させたかったが、1人で登るにはちょっと心細い。なので一緒に富士山に登ってくれそうな人を探していた。飲み会でなんとなく富士山の話題になり、昔からの友達が富士山に登ってみたいと思っている事が判明した。一緒に富士山に登ってくれる友達が見つかった瞬間だ。

お互いに休みを合わせるところから準備が始まり、バスやツアーや山小屋の情報を調べて富士山登山の計画を立てた。初心者同士の富士山登山だが、準備は万全だ。心配なのは天候だけだ。

25日の9時過ぎに新宿のバスターミナルで待ち合わせして富士山5合目行きのバスに乗る。

バスは途中で休憩を取りながら中央高速を軽快に走り、富士山を目指す。富士山が見えるだろう場所に来たのだが、富士山は雲の中で全容を見る事が出来ない。それでも、頂上は雲の上だと信じる。

お昼ごろにバスは富士山5合目に到着した。5合目にはたくさんのバスが到着している。10代の学生から50代ぐらいの年配の人まで、5合目は登山客でとても混雑している。ちょうどこの時間の5合目は下山して来た人と、これから登る人が集まっているみたいだ。これから登るツアーの人達はガイドの周りに集まって話を聞いたり、円陣を組んで気合を入れている。面白い光景だ。

ツアーの人達の意気込みに飲まれながらも準備を整える。金剛棒があると登りやすいというアドバイスを聞いていたので金剛棒を買う。その他にもトイレを済ませたり、腹ごしらえをしたり、5合目で済ませておきたい準備を整える。

登山の準備が整ったのは1時頃だった。我々の登山ルートは吉田ルートだ。最初の道順が良く判らなかったので、ツアーの人達が歩いていく方向に付いて行くことにした。

5合目を出発しても始めのうちは、ほとんど登りがないので平地をトレッキングしているようだ。そのうちに下りになった。帰りは最後に登りがあると思うとなんとなく気が重くなる。それと同時に道を間違えていないかと不安になった。それでも、ツアーの集団の後を歩いているので、道を間違える訳が無い。そのうちに登山ルートの看板が見えてきて、登り道になってきた。霧に包まれた中をたくさんの登山者と一緒に頂上を目指す。

景色を見ようとしても、5合目から6合目までは霧の中をひたすら歩いているので、山頂の様子も下界を見渡す楽しみもない。数百メートルの視界だけで、混雑した登山ルートを登っていく。

まるで修行僧の様だ。それでも、山頂は雲の上にあり見晴らしが良いと信じて登る。

富士山の登山ルートは階段や柵が作られていて人工的に整備されている。しかし、登山道を階段にされると登山者は普通の坂道を登るよりも、何倍も疲れるのだ。しかも、一段の段差が普通の階段よりもかなり高いので、段差を上がるのは一苦労だ。出発前に5合目で買った金剛棒が大活躍した。

富士山登山は混んでいると聞いていたが、これほど沢山の人がいるとは思わなかった。ツアーで来ている登山者の集団はガイドの先導でゆっくりと登っている。ツアーの登山ペースはゆっくり過ぎて疲れてしまうので、追い抜くのだが、ツアーの集団を追い抜くにはかなりのエネルギーを使ってしまう。混んでいるために疲労感が増大する。

富士山では自分のペースを保ちながら歩くのが難しいのを体感してしまう。平日でこれだけ混んでいるのだから、土日や祭日前だと、どれぐらいの人が富士山を登山しているのか想像がつかない。我々は土日を外して良かった。

たくさんの登山者と一緒になって、どこまで続くか判らない霧の中を登っているうちに、ようやく7合目の登山小屋が見えてきた。

7合目を過ぎると霧が晴れてきた。自分の位置よりも下は雲で見えないが山頂を見上げると見晴らしが良くなった。雲の上に出たのだろう。

太陽が地表を照らす。この調子だと明日のご来光も期待できそうだ。さらに歩いていくうちに、自分のすぐ下に見えていた雲が、かなり下に見えるようになっていた。しかも、いつの間にか森林限界を超えていた様で、岩と砂だけの世界になっていた。ここから上は植物の無い世界だ。

7合目から8合目の途中まで来ると、雲は雲海となって、遠くまで見渡せるようになっていた。

感激の風景だ。富士山以外は雲の下なのだ。これだけ大規模な雲海を見る事が出来たのは久しぶりだ。

8合目に到着する頃になると、夕暮れが近づいてきた。山小屋で宿泊できるかを聞いてみると、今日は予約で満室だという。仕方ないので更に上の山小屋を目指す事にした。夕暮れまではまだ時間があるので大丈夫だが、更に上を目指しても宿泊場所が無いのではないかという不安は広がる。山小屋の予約をしないで富士山に来たのはちょっと無謀だったかもしれない。

富士山には沢山の山小屋がある。当日の体調でどの標高の山小屋まで登るかを決めたかったので、登山の前から宿泊場所を決めておきたくなかった。なので山小屋の予約はしなかった。

しかも、我々が登るのは平日なのでそれほど混んでいないだろうし、沢山の山小屋があるのだから、どれか1つぐらい空いている山小屋があるはずだと思ったので、予約をしていなかった。

しかし、これだけ沢山の登山者がいると、予約を入れなかったのは失敗だったかとちょっとだけ不安になる。5時頃に標高3250メートルの山小屋の元祖室に到着した。宿泊できるか確認すると予約無しで宿泊できるようだ。寝床が確保できて良かった。安心した。

5合目から4時間の登山で1日目を終了する事が出来た。受付を済ませると寝床に案内してくれたので、荷物を置いて休憩する。

寝るスペースはかなり狭く雑魚寝だが山小屋に快適な睡眠空間を求める事は出来ない。

思っていたよりも綺麗な場所で眠る事が出来そうなので満足だし、何よりも予約が無いのに宿泊できた事の安心感が大きい。夕食はカレーライスだ。夕食の後に山小屋の周りを軽く散策して写真を撮ったが、夕焼けは富士山の影に隠れて見る事が出来ない。山小屋には寝床以外はほとんど何も無いし、明日は朝日を見るために早く起きなければならないので、6時には横になった。

一緒に登ってきた友達は頭が痛いらしく山小屋に到着してからずっと横になって寝ている。どうやら高山病にかかってしまったらしい。夕食は食べたら吐いてしまいそうなので食べれないという。携帯酸素を吸っているが、頭の痛みは続いているようで苦しそうだ。無理をする事は出来ないので友達の体調次第で明日の山頂登頂は諦めなければならないかもしれない。

富士山登山には大きな目的が3つある。1つは御来光だ。しかし、山頂での御来光はたくさんの人が目指しているので、大混雑していているらしい。しかも、山頂までの登山道が登山者で大渋滞していて、山頂に辿り着く事が出来ず、登山道の途中から御来光を見る事になる人が沢山いるらしい。2時に山小屋を出発しても山頂に辿り着けずに、渋滞の登山道の途中で御来光を見る事になるのは悲しい。しかも山頂付近は氷点下の気温になるらしい。

御来光は山頂からでも8合目からでもほとんど変わらないという話を聞いていたし、2時に山小屋を出発して寒さに耐えながら混雑している登山道で御来光を見るよりも、ゆっくりと身体を休めて8合目からの御来光を見る方が良さそうだ。なので、夜はゆっくりと休んで8合目からの御来光を楽しみにする事にした。

もう1つの目的は山頂登頂だ。俺は高山病が平気な体質なので5000メートル近いアンデスでも大丈夫だったが、友達の高山病の症状次第で2人で山頂に登頂する事は無理かもしれない。友達が高度順応できるように、ゆっくりと休んで山頂登頂を目指したいが、山頂登頂は明日の朝の友達の体調次第だ。

最後の目的は星空だ。標高3000メートルは地表よりも空気が薄いので、星空が地表よりも綺麗に見えるはずだ。夜の8時ぐらいにトイレのついでに星空を見に外に出たが、山小屋の明かりと登山者のライトで明るい環境だったが、十分に綺麗な星空だった。消灯後は更に綺麗な星空が期待できそうだ。

1時半ぐらいから山頂で御来光を見るグループが起きだして荷造りをしている。目を覚ました俺はトイレのついでに星空を眺めて見る。すると、思っていた様に綺麗な星空が広がっていた。ちょっと寒いので防寒具を取りに寝床に戻ると、高山病に苦しんでいる友達が眼を覚ましていた。星空が綺麗な事を友達に伝えると、頭が痛いのは収まらないが一緒に星を見に行くと言う。今のところは小康状態を保っているようだ。

少しだけ山小屋から遠ざかると星の光だけになった。これだけ綺麗な星空を見るのは久しぶりだ。今日は三日月なので月はすでに沈んでいる。星達の輝きがはっきりと見える。天の川も輝いている。冬の星座のオリオン座が東の空から登って来ようとしている。感激の星空だ。友達の頭痛はまだ続いているが、今のところは我慢できる範囲らしい。これ以上悪化しない事を願うばかりだ。数十分ほど星空を見た後に寝床に戻ると、ほとんどの人が御来光を見るために山頂に向けて出発していた。寝床が空いている。星空を見た後はゆったりと日の出まで眠る事が出来そうだ。

26日の日の出は5時5分らしい。4時半ぐらいに友達が先に目覚めて起こしてくれた。御来光を見るために外に出る。

外はかなり明るくなってきていて、眼下には雲海が広がっているのが見える。空気が冷たく張り詰めていて、朝日が昇る前の静けさを感じる。気温もかなり冷え込んでいて、使い捨てカイロが役に立つ。息が白い。

空はだんだんと明るくなり、雲海の一部が金色に輝き出してきた。もう少しで雲の間から太陽が昇る。感激の瞬間までもう少しだ。

周りから歓声が聞こえたのと同時に太陽が雲の間から顔を出した。太陽の光を受けた雲海は白く輝きだし、富士山も太陽の光を受けて輝いて見える。太陽が昇る光景にはいつも感激させられてしまう。

太陽が昇った後は山小屋に戻って、ホットコーヒーを注文した。早朝の気持ち良い空気の中で飲むコーヒーはとても美味しい。値段は高いが十分に価値のあるコーヒーだ。贅沢な時間を過ごす事が出来た。

朝日が昇った後は山小屋に戻って荷物をパッキングして山頂を目指して登山の準備をする。高山病で苦しんでいた友達の体調は少しは良くなってきたようだ。友達の体調が悪化したら直ぐに下山する事にして山頂を目指す。朝日を受けながら8合目の山小屋を出発したのは6時だった。

空は青く澄んでいる。

友達は空の青さに感激していた。雲海は太陽の光を受けて輝いている。美しい。ゆっくりと高度を上げていくが友達の高山病は悪化してなさそうだ。身体を動かさずに休んでいるよりも動いている方が調子良いみたいだ。このまま山頂まで行けると嬉しい。

眼下に広がる雲海を見ながら、岩と砂の世界を登っているうちに9合目まで来る事が出来た。

もう少しで山頂だ。標高は3600メートルだという。山小屋を出発してから1時間で9合目に到着した。このまま行くと残り1時間も掛からずに山頂まで行く事が出来そうだ。残りわずかだ。気合を入れる。

最後は足場が悪くなって登りにくかったが、7時半には山頂に到着する事ができた。

友達が高山病の悪化して、山頂まで行く事が出来ないのではないかと心配したが、無事に山頂に辿り着く事ができて嬉しい。富士山は霊山なので、山頂には神社がある。神社で金剛棒に焼印を押してもらう事ができた。山頂まで登頂した記念になる。

山頂ではカップヌードルを食べようと思っていたが、俺も友達もそれほどお腹が減っていない。山頂の休憩所で雲海と空の青さを見ながら相談したが、カップヌードルはやめる事にした。富士山の山頂でカップヌードルを美味しく食べる事は出来そうにない。

最初の計画ではお鉢巡りもしようと考えていたが、友達の体調を考慮してお鉢巡りはしないで下山する。下山の前に富士山の火口を見る。

火口には少しだけれども雪が残っていた。マグマが見えたりとか、地球の奥まで火口が深くなっているとか、そういう事はない。富士山の火口に驚きや感激を求めてはいけない様だ。反対に空を見上げると飛行機が近くを飛んでいるのが見えた。山頂からだと飛行機が近くに感じるのだろう。飛行機を近くで見る事が出来るのは、なんとなく嬉しい。

下山は膝や足の親指を痛めるらしいので、登りよりも気を付けなければならない。8時に下山を開始した。下山は登りと別ルートになっていて、山小屋に荷物を運ぶキャタピラ車が通るルートになっている。

砂利の下り坂なので歩き難い。しかも、誰かが歩くと埃が舞って歩き難さが増大してしまう。下山中は怪我をしないように気をつける。

7合目ぐらいまでは雲の上なので直射日光を受けながら下山するので少し日焼けしてしまったかもしれない。直射日光の中を、ひたすら下山する。同じような下り坂をひたすら歩くのは疲れるので、途中で休憩して30分ぐらい仮眠を取る事にした。直射日光でも高度が高く気温が低いので気持ち良く仮眠を取る事ができた。下山は膝を酷使するので、休憩は必要だ。しかし、膝の筋肉の疲労を回復するのに30分では短すぎる。

今回の富士山登山で使ったバックパックは世界中を旅した10年物だ。酷使しているのでボロボロになっているが、まだまだ現役で活躍してくれている。

でも、そろそろ現役引退が近づいているのかもしれない。その予兆を今回の富士山登山で感じてしまった。ほころびが目立つ。

6合目ぐらいまで下山すると雲の中に入った。周りには植物が生えてくるようになった。ひたすら続いていた下り坂も緩やかになり、登りルートと同じ道に合流した。平らな道がどれだけ歩きやすいかという事を実感しながら、5合目を目指す。正午前には5合目に到着した。金剛棒の底はかなり擦り減っており、十分に活躍した事を物語っている。5合目ではこれから山頂を目指す人達が昨日と同じようにガイドの話を聞きながら円陣を組んで気合を入れている光景を見る事が出来た。

富士山登山の3つの大きな目的は全て果たす事が出来て、大満足の富士山登山だった。

帰りは温泉に入って帰りたいと思い、お土産などを買う前に温泉まで行くバスがあるかどうかを確認する事にした。すると、10分後にJRの駅まで行くバスが出発するらしい。しかも、途中で下車して温泉に行く事ができる様だ。温泉の割引チケットまで貰った。このバスに乗らなければ次のバスが来るのは1時間後らしいので、直ぐにバスに乗って5合目を出発した。

疲れた身体を温泉に浸すと、心も身体も余計な力が抜けていく。気持ちが良い。体力と気力を温泉で回復させるとお腹が空いてきた。温泉にはレストランも併設されていたので、遅い昼食を食べた。昼食を食べている途中でお土産を買っていないことを思い出したが、すでに遅い。

温泉の売店で慌てて富士山のお土産を買い、高速バスで新宿に戻る。帰りのバスはほとんど眠っているうちに新宿に到着した。新宿から金剛棒を持ってJRに乗るのはちょっと恥ずかしい。

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