毎日ネジ締め50年

俺と同じラインで働いてる山田(仮名)さんが、定年を向かえて、退職したんだよね。65歳だって。考えてみると、山田さんは今日まで、50年近くラインを流れてくる機械を組み立てて、人生を歩んできたんだよね。なんだかすごいと思うよ。来る日も来る日も、毎日毎日、工場に通勤してきて、朝から晩までネジを締めて、そして、家に帰っていく生活を50年だよ。一口に50年と言ったって、その間に、結婚もしてるだろうし、子供も産まれたろうし、他にもいろいろと、辛い事や嬉しい事が沢山詰まった50年なんだろうな。

それが、突然、定年退職になって、お疲れさんと言われて、毎日通いなれた工場に行けなくなたら、何して良いか本当に判らないだろうなぁ~。生活が一転しちゃうんだもんな。

山田(仮名)さんが退職して、1週間ぐらい経って、4月に、新入社員が新しく、入ってきたんだよね。高校を卒業したばっかりの、おとなしそうな男の子が入ってきたの。1週間ぐらい研修をして、それから、俺が入っているラインにやってきたんだけど、まだ、何をやって良いか判らなくて、ラインの前に立って、ボケっとしてる事が、良くあるんだよね。ま、この前まで高校生だったんだから、誰かが教えてあげないとしょうがないんだろうけどさ。

でも、考えてみたら、俺は契約社員だから、半年そこそこでネジネジの仕事を辞める事になるけど、今回入って来た新入社員の高校生はこれから、定年まで一生ネジを締め続ける事になるんだよね。それを、考えると、なんだかかわいそうになってくる。

だけど、山田(仮名)さんみたいに、それを50年間やり通した人だっているんだよね。それを考えたら、今、いっしょに働いている、正社員の人たちだって、今まで、何年もネジを締めつづけているし、これからも、定年までネジを締めつづけるんだろうね。ネジを締めつづける人生って言うのも、案外悪くないかもしれないし、大勢の人達がネジの中に自分の人生を過ごしているんだろうな。

50年間ネジを締めつづけた人。これから、ネジを締めつづける人。今、ネジを締めている途中の人。工場の中には、こんな、いろいろな、人生が詰まっているんだろうな。

面白くなくて、単調で、ストレスが溜まって、精神的にも肉体的にも辛い仕事に見えるけど、実際に何十年も働くと、意外とそうでもないのかもしれないなぁ。毎日の小さな事に幸せを見つけて、それで、日々のストレスを発散して、年末年始とゴールデンウィークとお盆の長期休暇を目指して働いてるんだもんな。

なんだか、人生の凝縮の1つを覗き見る事が出来たみたいで、お金を貯めに行っただけなのに、お金以外に沢山の物事を体験できて、とても有意義な工場生活を送ることが出来たや。体重も10キロ増えたし。

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