歌う労働者

ネジを締めている時は何かしら鼻歌を歌いながら作業をしているの。その中で良く歌ってしまう歌が「ドナドナ」「大きなのっぽの古時計」なの。最初はその辺のポップスなんぞを口ずさんでいるんだけど、いつのまにか、「ドナドナ」「大きなのっぽの古時計」を歌い出してるの。変でしょ。

「ドナドナ」は昔っから口ずさんでたんだよね。淋しいよね。ドナドナ。子牛が売られていくんだよね。ドナドナ。荷馬車が揺れるのさ。なんかさ、風景が浮かび上がるんだよね。全体的に淋しい雰囲気が漂ってるんだよね。

ドナドナ。ドナドナ。不思議な歌だよ。

「大きなのっぽの古時計」も不思議な力を持ってるの。切ない気持ちになるんだよね。それに、「大きなのっぽの古時計」にはおじいさんの一生が凝縮されてるんだよね。人の一生が歌われてるんだよ。スゴイ歌だよね。

「大きなのっぽの古時計」は100年生きたんだよね。おじいさんと一緒にチクタク。チクタク。
古時計はおじいさんの100年の人生をずっと見てたんだよね。スゴイよね。

おじいさんの生まれた朝にその時計はやってきたの。きっと、おじいさんのお父さんが買ってきたんだろうね。大きなのっぽの時計を買ってこれるぐらいだから、おじいさんの家は裕福な家だったんだろうね。当時(いつ?)は時計だって高価だっただろう。しかも、大きなのっぽの時計である。かなりの高額な買い物だろう。

その、大きなのっぽの時計を生まれた朝に買ってきてもらえるおじいさんってとても愛されて産まれてきたんだろうね。幸せなお父さんとお母さんの間に生まれてきたんだろうね。
そんな両親だから、おじいさんはきっと、何不自由なくすくすくと育っていったんだろうね。

両親もそんなおじいさんの成長を喜んじゃったりしてさ。おじいさんの将来の事をあれこれと想像しただろうね♪
そんな両親の愛情をいっぱい受けておじいさんは成長していったんだろうね。
おじいさんは立派な社会人になってステキな花嫁さんをもらって、幸せな家庭を築くんだろうね。きっと。結婚式の事も、結婚するまでの色々なエピソードも大きなのっぽの古時計は知ってるんだろうね。チクタク。チクタク。

そして、おじいさんもお父さんになってさ。幸せな人生を送るんだよね。きっと。
おじいさんの子供にも愛情をいっぱい注ぎ込んで奥さんと一緒に育てたんだろうね。
大きなのっぽの古時計はそんなおじいさんの人生の1ページもちゃんと見てるんだよね。チクタク。チクタク。
時間は無常にも流れていくんだよね。おじいさんの両親も亡くなってしまって、そして、おじいさんもどんどん年を取っていくんだよね。どんな人間も時間の流れには逆らえないんだよね。
おじいさんの子供達も立派に成長して、おじいさんにも孫ができたりしてさ。幸せに老いていくんだろうね、おじいさん。
最愛の妻も先に天に召されてしまってさ。おじいさんと一緒なのは大きなのっぽの古時計ぐらいしかなくなってさ。淋しいだろうね。でも、100年生きたんだよね。おじいさん。きっと、100年の人生にはいろんな事が有ったんだろうね。楽しいこともいっぱいあっただろうけど、つらいことや悲しいこともそれと同じぐらい有ったんだろうね。
そのおじいさんの人生をずーーーっと見守ってきたのが大きなのっぽの古時計なんだよね。おじいさんのお父さんが買ってきてくれた時計。きっと、おじいさんのお父さんは大きなのっぽの時計に大きな期待を込めて買ってきたんだろうね。

おじいさん、幸せな人生だよね。

「大きなのっぽの古時計」って、感動するでしょ。

涙をこらえながらネジを締めてるッス。もうすぐ夜勤明けッス。仕事おしまいッス。

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