船なんて乗らない

俺は乗り物酔いをしやすい体質なんだよね。それでも、最近はそんなに乗り物酔いはしなくなってきてたから、安心してたの。前回のシルクロードの旅で何回か船に乗ったんだけれども、そんなに船酔いはしなかったの。それが、今回の旅の最初に苦しい体験をしてしまったんだよね。

2002年の11月にメキシコのカリフォルニア半島のラ・パスからメキシコ本土のロス・モチスまでカリフォルニア湾を横断したんだけど、そのときに乗った高速艇が凄い揺れて大変だったの。船が港から出るまでは大丈夫だったんだけど、港から出たとたんにスピードを全開にして本格的に航行を開始したんだよね。波を切り裂いて高速でガンガン進んでいくの。波と波の間をジャンプするようにして突っ走るの。当然、船の甲板に出る事はできない構造になってるし、外に出たら吹っ飛ばされる勢いで船は走ってるんだよね。

俺は船が港を出て10分も経たないうちに船酔いしてしまったの。しばらくは外の景色を見ながら頑張っていたんだけど、外の景色はどこまでも荒れ狂う海原にしか見えないの。こんな景色を見ていても船酔いの気晴らしには全然ならないんだよね。ゲロ袋を口に当てながら自分の座席に座って苦しい時間を過ごしてたんだけど、それでも我慢できなくなったの。周りを見渡してもほとんどの人がゲロ袋を口に当ててるんだよね。どうやらこの船の乗務員の仕事はゲロの入ったゲロ袋の回収と新しいゲロ袋の配給らしい事が判ってきた頃には俺の思考回路はほとんど停止状態になったの。

最終的には座席に座っている事もできなくなって、ゲロ袋を抱えたまま床に転がって苦痛の数時間を過ごす事になったんだよね。ある意味、拷問に掛けられているような船旅を体験してしまったの。船がロス・モチスの港に到着した時には放心状態のまま船を降りて、もう絶対に船には乗らないことを誓ったの。

でも旅をしている以上、船に乗る機会はかなりあるんだよね。それから、1ヶ月もしないうちにベリーズのブルーホールでダイビングするために船に乗ったし、ホンジュラスでも小島に行くために船に乗ったし、何と言っても南極では13日間船で生活することになってしまったんだよね。

カリフォルニア湾の船ぐらいの揺れは体験しないで済んだけれども、南極に行く船もかなり揺れたんだよね。南極は激しく揺れる話は聞いていたから、南極に行くときは始めから酔い止めの薬を飲んでいたし、カリフォルニア湾ほどは揺れてなかったから大丈夫だったけどね。もし、13日間ずっとカリフォルニア湾ぐらいの揺れが続いていたら、楽しい思い出が何もない拷問の13日間になってたかもしれないな。

そう言えばカリフォルニア湾の船と同じぐらいの苦痛な体験をした事があった。2000年にペルーのナスカの地上絵を見るために乗るセスナだ。ナスカのセスナは20分ぐらいで苦痛の時間から開放されるからまだ良いけど、カリフォルニア湾の船は数時間なので、苦痛の強烈さも時間に比例して耐え切れなくなの。

もう、あんな体験はしたくないよ。

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