首長族の村ツアー

2004年4月に行った首長族の村のツアーのご紹介。

ソンクラーンが終わった次の日の4月16日の朝にメーホンソンに行く。ソンクラーンが始まる前にメーホンソンの首長族の村に行くツアーに申し込んでいたのだ。参加者はみんな日本人だったのでツアー内の公共言語は必然的に日本語になる。ツアー参加者が多国籍だと公共言語は英語になりやすいが、参加者が日本人だけだと日本語で意思疎通が出来るので嬉しい。しかも、ガイドも日本語を理解する事ができるので意思疎通はとても楽に行う事が出来そうだ。

チェンマイ郊外の市場で買出しをした後に出発する。ツアーの車はトラックの荷台を座席に改造してある。ツアー客は基本的にみんな荷台に乗せられた。途中の山道はかなりカーブがきつかったので車酔いをしてしまいそうだが、トラックはそんなことは気にせずに山道を走る。

途中で昼飯のためにドライブインで休憩をとり、さらにトラックは山道を走り続けた。峠の頂上で少し休憩を取る事になった。峠からは遠くの山々を見渡すことが出来る。座りっぱなしで痛くなった腰を伸ばしながら景色を眺めて硬くなった身体をほぐす。みやげ物やにはサルの赤ちゃんがいてとても可愛い。

束の間の休息が終わり、狭い車内に戻るとトラックは走りはじめた。しばらくすると最初の観光場所の洞窟に到着した。ランプを持った女性のガイドが洞窟の奥まで案内してくれる。洞窟はかなり大きくて入り口の近くは太陽の光が入ってくるが、少し奥まで行くと完全な暗闇になった。洞窟の奥は巨大な鍾乳洞がたくさんある暗黒の世界だ。ガイドの女性のランプだけが唯一の明かりとなった。人形のような鍾乳石トルコのパムッカレのような所もあって面白い。洞窟内部は涼しくて気持ちよい。南国のタイにいるという事を忘れてしまいそうな心地よい空間だ。

洞窟を楽しんだ後にようやくメーホンソンの村に到着した。村人たちが我々ツアー客を迎えてくれる。メーホンソンには首長族の他にも耳長族の人が住んでいる。この近辺に住んでいる少数民族は総称してカレン族と呼ばれているようだ。

首長族の村はとても小さい。ガイドに案内されて村の中心にやってきたが、案内される必要もないぐらいの距離だった。村の中心では村人たちが我々ツアー客を歓迎してくれた。首長族の村なのだが歓迎してくれた村人たちは普通の人と変わらない姿をしていた。村人全員が首が長い訳ではないようだ。首の長い女の子は見当たらない。

ガイドは夕食の準備をするというので必然的に自由時間となった。村の中を見学するがあっという間に終わってしまった。今までのツアーで見ることが出来た観光用の村という名の土産物市場とは違って、村人たちは本当にこの村で生活しているようだった。村を散策していると、どこからか首の長い女の子が我々ツアー客の前にやってきた。

首の長い女の子は我々が日本人だと判ると、日本語で話しかけてきた。意思の疎通が出来る程度の日本語を話す事ができるので驚いた。日本人観光客がたくさん来るらしく、日本人と話をしているうちに日本語を覚えたそうだ。彼女は長い首輪をしており本当に首が普通の人よりも長いのだ。写真をたくさん撮りながら質問攻めをしてくる我々観光客に対して彼女は自分の首や首輪を快く見せながら質問に答えてくれた。俺は実際に首の長い人を見ることが出来て衝撃だった。しばらく彼女と話しているうちにガイドの夕食が出来上がった。

村には電気が無いので夜はランプの明かりで村人たちと一緒にご飯を食べる。そして夕食のあとは首の長い女の子を囲んでみんなで話をして過ごす。首長族の結婚の事やどうやって首を長くしているのかなどたくさんの質問に丁寧に答えてもらえた。

彼女からは少数民族の村の状況を聞く事ができた。少数民族は居住区からの移動を制限されるなどタイ政府からたくさんの制限をされており、苦しい生活をしていると教えられた。彼女たちは村から出る事も制限されており、村の外にはほとんど行った事がなく、村の外の事はほとんど知らないと話してくれた。

彼女たちは環境に適応した昔ながらの自給自足の生活を続けている。昔ながらの伝統的な生活を続けているといえば聞こえが良いが電化製品を使った便利な生活とはかけ離れたランプを使った生活をしているのだ。電気すら無い彼女たちの生活を実際に目にすると電気を使いながら快適な生活をしている人間から地球環境保護やエコロジーの話を聴いたとしても説得力を感じなくなる。車や列車で移動したり、洗濯機や冷蔵庫を使って生活したり、スーパーやコンビニで食材を買い、テレビを見ながら快適な生活をしている人間がどれだけ理論的で必死に地球環境保護を訴えたとしても彼女たちの生活を見た後では綺麗ごとにしか聞こえない。

また、カレン族の村に観光客が入る時には入場料金が必要なのだが、その料金収入はすべてタイ政府の収入になり、村には収入が何も入らないという話も聞いた。

そして、カレン族のような生活を現在も続けている人たちは地球上のたくさんの場所に点在している。彼らがどのような考えや思いで生活しているのかは、彼らにしか判らないだろう。

首の長い女の子はいつも自分の身体や首を目的にたくさんの人たちがやってきてくれると話してくれた。観光客がたくさん来てくれる事は外の世界の話を聞いたりできるので彼女にとっても楽しい事のようだ。

最初は見世物を見るような感覚で写真を撮ったり質問をしていた我々も夕食を一緒に食べて話をしているうちに首の長い彼女の人格を認めて対等な立場で話が出来るようになった。観光客たちから見世物のように扱われている彼女にも人権や私生活があるのだが、観光という言葉の力の前では彼女の人権が軽く扱われてしまうので恐ろしい。最初に彼女に会った時の我々の失礼な態度にも快く受け答えしてくれた彼女の態度に感謝したい。

話を続けているうちに彼女は自分の身体を見世物にする事を当然の事だと思い込んで生活しているのではないかと感じた。我々もがそうであったように観光客が彼女の首を見に行く事は彼女の人権を無視しているのだが、彼女自身がその事を不快だと思っていないようなのだ。

彼女の人権を守るためには観光客の受け入れを止めてしまえばよい。しかし、観光客の受け入れを止めてしまえば彼女たちは現金収入が無くなりさらに貧困な生活になるだろう。それに、彼女は現状の生活を楽しんでいる様子なので、今はこのままの生活を続ける事が彼女にとっても幸せなのかもしれない。それでも観光の対象となり人権が無視されている現在の状況が良い訳ではない。複雑で難解な問題だし、これからの生活をどのようにするかを判断するのは彼女たちだ。観光客として接しただけの俺はこれ以上考えるのをやめた。

いろんな話をしているうちに夜の10時ぐらいになった。そろそろ就寝時間のようだ。たくさんの話を聞き貴重な体験をする事が出来た。村の外れにツアー客が泊まる建物があるのでそちらに向かった。もちろん電気はないので、懐中電灯の明かりだけを頼りにする。シャワーを浴びようと思ったが電気はないので暗闇の中で水浴びをする。シャワーと聞かされていたが案内されたところに合ったのは水と桶だけだった。冷たい水を身体にかけて奇声を発しながら身体を洗い寝袋に入ってそれぞれ眠った。

4月17日の朝は7時に起きてご飯を食べる。それから、カレン族の村をガイドに案内されて歩いてまわる。村には教会があった。タイの少数民族の村に教会があるのにはちょっと驚いた。こんな辺境の村にもキリスト教徒は布教活動に来ていた証拠だ。昨日の話を聞いた後に村を見てまわると、あまりにも狭い場所で生活させられているのだと改めて感じた。

 村の中ではたくさんの民芸品を売っている。この民芸品もすべて自給自足の生活から作っているのだろう。民芸品の収益がカレン族の唯一の現金収入になるのだそうだ。俺は民芸品や土産物には興味がないので見ているだけだったが、一緒に行った男の子がたくさん買っていた。民芸品に興味がある人に買ってもらう方がその後も大切にされるだろう。

9時ぐらいにカレン族の村を出発してメーホンソンの村に向かった。メーホンソンでは有名な寺に行った。コン山という高い丘の上にその寺はあった。寺からはメーホンソンの空港や村が一望できる。日本語でガイドの説明を聞きながら観光できるのはうれしい。寺を観光したあとは魚の洞窟に向かった。洞窟から水が湧き出ていて小さな川になっていて、その川にたくさんの魚が群がっている。餌を与えるとさらに魚が集まってきて密集する。しばらく、魚を見ているうちに時間になって出発した。

帰りに温泉に寄ってくれる事になっていたが、温泉の入場料がとても高いと聞いたので温泉は諦める事にした。昨日と同じドライブインで昼食を食べてからは帰りもひたすら車を走らせて、夕方にはチェンマイに戻る事が出来た。予定時刻をかなり遅れてしまっていたが十分に楽しむ事が出来たツアーだった。

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